カテゴリー「サルコジ大統領諮問への回答」の6件の記事

2012年2月 3日 (金)

11の国際/地域機関の長による「行動の呼びかけ」

 今年の1月20日、IMFの専務理事を始め11の国際/地域機関の長が個人的立場ながら連名で、成長と雇用増のための「行動の呼びかけ」を発表しました。この呼びかけは、世界経済フォーラム(ダヴォス会議)の国際問題グループとして集まった11名によるものですが、それぞれが代表する機関は、IMF、世界銀行、WTO、OECD、世界保健機構(WHO)、国連世界食糧計画(WFP)、国際労働機関(ILO)、三つの地域開発銀行と、国際金融機関だけでなく、経済社会国際機関が加わっているのが特徴で、経済政策を社会政策に視点を置きながら検討してゆこうとする姿勢が見られます。G20金融サミットを軸とした問題解決を目指しながらも、政策の国際的調整及び推進を担う国際機関が相互に連携を深めることは有効なことに思われます。

 呼びかけは、2012年に入るにあたっての懸念として、成長の減速、深刻な失業問題、保護主義の強まりを挙げ、こうした懸念を解決するために我々が共有する目標は、「世界のあらゆる地域で、成長と雇用を強め、生活の質を高めることである」としています。そのために留意すべき点について、「新興の世界で進んでいる経済の転換を支えること」、「金融機関に自信を回復させること」、「欧州の財政の枠組みを安定させること」等と共に、最近の緊縮財政政策の行き過ぎを意識して、「財政を強化するにあたっては、成長と雇用の見通しを減退させるのではなく、むしろ促進するように工夫すること」が挙げられています。

 社会保護については、「各国は、社会保護と、公共部門での効率性とを共に、改善しなければならない」としていますが、こうした一般論のもとで、社会保護の実質的な切り下げが行われることも多く、国ごとには、もっと具体的な議論が必要でしょう。呼びかけは、「職を増やし、人的資本に投資するのは、格差問題に取り組むのに最も有望な方法である。われわれは、国際労働機関、その他による政府を支援する仕事を支持するものである。逆境にある最も脆弱な人々に、コスト面で効率的な社会政策のクッションを提供することを含め、政府が現実的な政策オプションを検討するのを支援するのである。投資のターゲットは、技術と教育、そしてこのようにして人々に未来への装備をすることである。格差の拡大は、いっそう包括的な成長モデルの検討を求めている。われわれは、実質的な生活水準の具体的な改善と、より強い社会の一体性を実現させなければならない。」と、社会政策論を展開します。

 IMFのガーソン財務局次長が、日本の消費税率について「15%まで引き上げる必要があると24日の記者会見で述べていたといいます。「社会保障と税の一体改革」の名のもとでの消費税率引き上げは、社会保証給付等の切り下げと、大衆増税の一体改悪であり、国民の消費を低下させ、成長を阻害するものです。ラガルド専務理事の参加しているこの呼びかけの趣旨からしても、日本政府に対する慎重な検討を求める呼びかけがあって然るべきです。まずは、ラガルド専務理事のIMFでの指導性の発揮と、国際機関の中でのこうした方向での国際機関の協調の推進を期待したいと思います。

 「行動の呼びかけ」は、一部新聞報道はありましたが、全文の翻訳は見当たりませんでした。そこで、私が翻訳したものをPDFで読めるようにしました。参考にしていただければ幸甚です。なお、和訳にあたっては、合田寛氏のご協力をいただきました。

→ “Call to Action”英文原典

→ 「call_to_action_japanese_version.pdf」をダウンロード  「行動の呼びかけ」

 今年はIMF・世銀年次総会が10月12-14日に東京で開催されます。「大震災から力強く復興するこの国の姿を、世界のみなさまに見ていただくために。日本独自の高い技術やサービス、効率を追求した会議運営を通じて日本経済の底力を肌で感じてもらうために。」とホームページには意義付けられていますが、消費税率引き上げを許さないことが世界に経済社会危機克服の方向性を示すことになるのだと思います。

→ IMF ・世銀年次総会2012

以上、

森 史朗

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2011年10月18日 (火)

広がる国際準備通貨問題の議論とパソードの覚書試訳

1.世界に鬱積する民集の不満と3つの問題
 昨年12月に北アフリカ、チュニジアのジャスミン革命に端を発した貧困と格差と失業の解決を求める民集の運動は、欧州の政府債務問題に伴う社会保障の切り下げ、長期化する米国での高い失業率(9%強)、米国連邦債務上限引き上げ法案に伴う社会保障カットへの動きに対抗して、全世界に広がってきています。日本では街頭行動は、まだ活発とは言えませんが、東日本大震災の被災者のみならず、国民全体が不満と鬱積感を抱えています。
そんな中で国際的に広がってきている考え方が、三つあります。

① 経済と社会問題の中核をなす雇用問題
 一つは、雇用を社会の中に居場所を見つける、人間の尊厳の中核と位置づけ、労働条件の改善と、失業の削減を推進しようとするものです。EUでは早くから取り組まれてきましたが、現在はILOが、ディーセントワークの課題として取り組み、国連として世界レベルで取り組まれています。

② 金融業務の優越的地位の見直しと正当な役割と処遇の回復 
 もう一つは、その機能と位置から収益力が高く、失敗しても税金で救済してもらえる産業となってしまっている金融業を、投資と貯蓄を効率よく結びつける潤滑油役という本来の役割に回帰させることです。最近EU委員会で採択され、米国でも議会に提出された金融取引税はその具体化の一例です。

③ 超国家的国際準備通貨制度への移行
 三つ目は、米国の覇権体制を支える仕組みの一つであり、貧しい国から豊かな国へ富の移転を行う仕組みとなっている、現在の米ドル単一基軸通貨制ないしは米ドル・ユーロ複数基軸通貨制から、超国家的国際準備通貨制度に移行してゆくことです。この問題は、まだ十分な議論がなされておらず、コンセンサスができていませんが、その結果が上述した二つの問題の解決にも大きな影響を与える重要なものです。
米ドル単一基軸通貨制の問題はこれまでも話題になって来ましたが、今回の危機が今までになく深く長期に及ぶものになったこと、その危機が米国発であったことから、国際通貨制度に対する率直な批判が行なわれるようになりました。今日は、最近の二つの新聞で採りあげた国際金融制度改革についての記事をご紹介します。

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2011年10月 5日 (水)

ラガルドIMF専務理事とゼーリック世銀総裁の9月総会前スピーチに見た景気動向と11月G20の課題

《 目次 》
 はじめに
  出典
1.ブレトンウッズ体制の位置づけと今日の問題点
2.民主的ガバナンス
3.今日の危機・変化の捉え方
4.危機克服への展望と課題

《はじめに》
・この文章は、9月23日に米国ワシントンDCで開催されたIMF-世銀年次総会に先立って、9月14日から15日にかけて行なわれた、ラガルドIMF専務理事と、ゼーリック世銀総裁によるスピーチの内容をスティグリッツ或いはパリグループの見解と比較検討したものです。文章は4節から構成されていますが、各節が3項ずつに分かれています。「①パリグループ」は、この文章の本筋に当たる部分で、ラガルドIMF専務理事、ゼーリック世銀総裁の順にスピーチの各節に当たる部分を比較検討しています。黒のフォントを利用しています。②③は、ラガルドIMF専務理事と、ゼーリック世銀総裁スピーチの引用したものを記してあります。前者に青、後者にオレンジ色を利用しました。ふたりともこの文章の節の順番に書いているわけではないので、各節の掲載引用文の順序は原典と異なります。ブログ本文には、①の部分だけをまとめたものを掲載し、②③を含めたものは、ダウンロードするようにしてあります。
・IMF、世銀はWTOと共にブレトンウッズ体制の中核機関を構成しているだけに、その主張に大きな差はないはずですが、今回の二人の発言にはかなりの違いがありました。ラガルドIMF専務理事の発言には、経済政策が社会にもたらす負荷への配慮がありました。ゼーリック世銀総裁もこの問題には触れていましたが、市場、特に民間市場への信頼が厚く、必要な規制や配慮への認識が足りないように見えました。政治的な背景にサルコジ仏大統領を持つラガルドと、ブッシュ前米大統領を背景に世銀総裁になったゼーリックとの違いとも言えましょう。
・スピーチは危機感に満ちており、決断と協調が求められていますが、協調してゆくためには危機克服のための政策的合意が必要です。その合意がまだできていません。11月3-4日に掛けてG20がカンヌで開催されます。会議を主宰するサルコジ大統領は年初にパリグループから提言を受けていますが、国際金融制度改革を含めて、問題解決の道筋についての合意レベルを高めてゆくことが求められています。
・例えば、ギリシャを始め南ヨーロッパ諸国に厳しい緊縮財政を求めたとすれば、国内の社会的緊張が高まりを予想され、投機筋の攻撃を受け為替安、債券安、株式安のトリプル安になることも想定されます。そうなれば日本でも円高が進み、業績悪化見込みによる株式の下落も起こり得ます。緊縮財政を取らなければ、それはそれで同じことが起き得ます。これでは、どう転んでも景気の悪循環から抜けだせません。雇用と景気回復の信頼できる見通しと國民の理解、国際社会の協調と決意が不可欠です。投機筋に隙を与えない強力な協調体制が必要であると同時に、根拠のある見通しが必要なのです。しかし、政治が事態に追いつくことは難しく、本当に危機を克服してゆくためには、もう少し痛い目に合わないといけないようです。

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2011年6月24日 (金)

G20農相会議でサルコジ大統領が、市場規制による食料安全保障を主張。日本は?

 毎日新聞(電子版)によれば、農業一次産品価格の投機的な高騰を前に、市場規制による食料安全保障をフランスのサルコジ大統領が主張したそうである。
 サルコジ大統領は、6月22日から二日間の日程でパリで初めて開催されたG20農相会議で「規制のない市場は市場ではない、食糧の安全保障を確かなものにしなければならない」と述べ、金融危機の再発防止のために各種規制を取りまとめたことを念頭に、「金融市場で達成できたことを農産物市場でもやらなければならない」と、規制の具体化を求めたという。極めて妥当な対応である。
 同会議では、50年までに世界の食料生産を70%増やすことを目標に、食料需給に関する情報収集と分析を行う「農産物市場情報システム」(AMIS)設置などをうたった閣僚宣言を採択する。ただ、農業投資の促進や農産物投機の抑制をめぐっては、具体性を欠いた合意にとどまりそうだという。農産物価格の乱高下を招く投機の抑制については、G20財務相会議に検討を求めるが、国際市場を抱える米国や英国の反発で紛糾も予想されるとのこと。
 また、米英の組と、フランス、或いはフランスとドイツの組が対抗する図を見ることになるのかも知れない。今年のG20の主宰者役を務めるサルコジ大統領が、スティグリッツとフィトゥッシの二人を共同議長とするパリグループにG20の課題について諮問していた。二人への諮問には驚かされたが、最近の米国での金融規制の繰延、今回の農相会議等を見ていると、同グループが提言で述べていたように、2008-2009年に見られたG20の結束感が消え去り、経済政策の再国家主義化(renationalization仮訳)が始まっていると記した事には十分な理由があるのだと確認させられた。「提言」を読みたい方は、後で下記をクリック!

(→ G20と景気回復、そしてその先…21世紀のグローバル・ガバナンスへの課題

 さて、ここで問題となるのが日本の立場である。食料の安全保障の再構築という課題に直面している我が国にとってサルコジ大統領の主張は渡りに船のはずだが、自民・民主共に英米連合乗りのようである。
 TPP(環太平洋経済連携協定)は、日本農業の大規模経営化と農産物の貿易の自由化を図るものである。途上国からの輸入拡大を進めることは必要だが、日本の食料安全保障を崩壊させてまでして米国等の食糧大国に100%市場を開くことはない。ましてや、大震災の被害の中心となった東日本が農村部を抱えていることを勘案するとTPP加盟は日本の経済復興を妨げるものとなるのは必至である。

 日本代表は、篠原孝副農相が出席する。氏が農林省勤務時代に駐在し欧州農業政策の第一人者になったところがフランスである。篠原氏は自身のブログでTPP加盟に反対する論陣を張っている気骨のある議員である。今回は自身の考えには箝口令が敷かれ、収束の見込みの立たない原発問題に付いて作物の安全性を説明するというむづかしい役回りを果たさなければならない。役目とは言え、どうせやるなら自身の思い通りやらして欲しいものであると思っているのではないだろうか。

森 史朗 2011/06/24 

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2011年5月19日 (木)

21世紀のグローバル・ガバナンスへの課題…パリグループ提言を考える

 5/19に本論考を掲載してからまもなく文章の中のいくつかの誤りに気づきましたので、訂正致しました。最初の7項には訂正はありません。8ー10項のみに訂正(下線)がありますので、その部分だけでも目を通していただけると幸甚です。
・・・・・・・・・・
 この5月初め、「サルコジ大統領からの諮問に対するパリグループ提言」の発表をしてから、消化不良のようなものを感じてきました。「そこで、「提言」をベースに、国連報告も踏まえ、自分なりに問題を整理してみました。結果的には原典からの引用の塊みたいなものになってしまったようにも見えますが、読みやすく整理されたところもあると思います。

《目次》
1.諮問の経緯と本書の構成
2.グローバルガバナンス組織として決定的転換点にあるG20
3.効率の良いグローバルな利益の実現と、新自由主義批判
4.世界総需要のマイナス要因となる所得格差と、外貨準備高需要
5.貯蓄と高利回り分野のとの間の資金循環の重要性
6.経済実績と社会発展についての適切な尺度による評価と実行
7.G20は国際通貨金融システムの包括的見直しを開始すべきだ
8.進んだ金融部門改革
9.開発計画
10.グローバルガバナンスの改革
本記事は、A4版1枚につき、1ページの設定で印刷ください。

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2011年5月 7日 (土)

パリグループのサルコジ大統領宛て提言…転換点にあるG20 (2011/09/03三訂版改訳)

The_g20_and_recovery_and_beyond_cov


P.15の最終行からP.16の第2段落、P.19の「3」の最終段落を訂正しました。
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 今回の記事は、この4月18日にブログに掲載した、《サルコジ大統領宛G20諮問回答①…フィトゥッシ、スティグリッツ》の続編に当たり、尚且つ第一部の完結に当たるものである。そこで、第一部の全訳を今回の記事に、まとめて掲載し、4月18日の解説部分は全訳の「訳者あとがき」に組み込んである。

Sarkozy_ate_parisguroup_teigen_cove
 さて、あまり知られていなかったサルコジ仏大統領宛ての提言であるが、4月に開かれたG20財務相、中銀総裁会議を経て注目を浴びつつある。景気刺激策での世界的協調から2008-2009年にかけてかなりの景気回復に成功したが、最近ではPIIGS問題(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの頭文字を取ったもの)と言われる欧州の政府債務危機が再燃し、2011年の成長率はマイナス成長に留まり、2010年を下回ると見られている。日本自体が東日本大震災と原発事故を抱えているが、期待したい海外の経済動向も平坦ではなく、これからの日本にはこれまで以上に誤りのない舵取りが求められる。国際的視野で今日の危機を理解することが求められる所以である。

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