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2014年11月24日 (月)

合田寛著「タックスヘイブンに迫る」を読んで (2014.9.25新日本出版社刊、1700円)・・・・・・資本主義の聖域、タックスヘイブンに迫る好著

 税制や会計の問題に詳しく、その為もあって当ブログでもその著書や、雑誌への掲載論文のいくつかをご紹介してきた合田寛氏が、最近、タックスヘイブンについての単行本を発行されたのでご紹介する。TAXHAVEN、直訳すれば、「税金からの避難港」については言葉を耳にする機会は増えてきたものの、まだその意味や実態が理解されていない分野だとも言えよう。

《『アベノミクス』批判の舞台》
 12月14日投票の総選挙の大きな争点の一つとなる『アベノミクス』の舞台は、国際生産投資の獲得をめぐる国際輸出・技術競争力競争。アベノミクスは、労働力の流動化によって安くて効率の高い労働力を作り出し、法人税の安い、法人による社会保障負担の低いビジネス環境を作ろうとしているわけである。
 しかし円安で交易条件を高め、膨大な流動性を市場に供給し、個人消費と法人設備投資を刺激し、消費増税後のGDPの反動減を小さくしようという思惑も失敗に帰した。駆け込み需要のあった2014年1-3月期実質GDP前期比 +1.5%、,駆け込み需要の剥げ落ちた4-6月期、-1.7%、7-9月期-0.4%と、増税に対応しての消費需要減が『成長政策』に先行している形だ。
 この『アベノミクス』の誤りを分析する際にも国際金融資本の資金の流れを追うタックスヘイブンの分析手法が必要となると思われる。

《開拓者として》
・この分野の開拓者としてのご苦労を思い、著作への感謝に耐えない。サミットから市民運動まで、税務・会計・経済から政治・地理まで、広い知見が示された。今後参考とすべき基礎資料の整備としても助けとなるものである。この書は、タックスヘイブン問題が身近で放置できないものだという警鐘を鳴らすと同時に、欧米に比べ遅れている日本での運動の喚起を訴える啓蒙の書でもある。以下、重要と思われる論点を紹介する。

《タックスヘイブンを利用した目に余る課税逃れ》
・毎年、売上17 兆円、利益3 兆円、フルタイムの正規雇用だけでも8 万人を越えるアップル社が、まったく納税していなかった。同社だけでなく、ほとんどの大企業がタックスヘイブンを利用した課税逃れに取り組んでいる。
・海浜リゾートのイメージに重ねられがちなタックスヘイブンを舞台にした課税逃れの仕組みは、「タックスプランニング」という言葉に美化され会計士事務所や法律事務所から提供されている。ヤシの木の背後には多国籍企業や巨大銀行、法律会計事務所によるグローバルなネットワークが浮かび上がってくる。

《国際的税務ガバナンスの遅れ》
・グローバル化した現代の資本主義において、企業やマネーはクロスボーダーに自由に移動し税務裁定を行うが、国家の規制は国境の外には及ばず、国際機関や多国間協力による監視や規制(国際的税務ガバナンス)もグローバルビジネスの展開に追いつけないでいる。(p.10)
 ①有害な税の競争…こうした事態の下、各国は国際的税務ガバナンスの破綻を抜本的に打開するのではなく、各国が法人税減税を競う「有害な税の競争」(自身のタックスヘイブン化)に拍車をかけている状況にある。日本政府のアベノミクスの第三の矢の柱として、現在約35%の法人税の実効税率を20%台にする計画が打ち出されているが、これも「有害な税の競争」に参画するものである。(p.10)
 ②失敗したブラックリスト…1996年のG7サミットを受けてOECDは1998年に「有害な税の競争」レポートを発表した。そこではタックスヘイブンは以下のように定義され(ⅰ.無税か名目的な低税率、ⅱ.実質的な経済活動の欠如、ⅲ.効果的な情報交換の欠如、ⅳ.透明性の欠如)、2000年の中間レポートでは47の法域(タックスヘイブンの法体系が国の一部地域にのみ適用される場合、国・地域を分けて捉える)がリストに指名された。それ以来ブラックリスト掲載はタックスヘイブンに圧力をかける主要な方法となった。しかし結果的に2000年6月に発表されたブラックリストでは先進国、ケイマン諸島等がリストから外され、指名されたのは35法域に留まった。同年、OECDはタックスヘイブン規制のためOECD非加盟国と協力したグローバルフォーラムを結成したが、当初のタックスヘイブンの4つの定義の内ⅰとⅱを除外し、取り組みを更に弱めた。OECDの姿勢の変化の裏には富裕者や大企業の利益を代弁するシンクタンクの圧力に屈し2001年に米国がOECDイニシアチブへの支持を取り下げたことがあった。(p.15-162,24)
 ③リーマン・ショック後も失敗…2008年のリーマン・ショックを契機とした世界金融危機はタックスヘイブンに対する関心を再び呼び起こした。今回は、タックスヘイブンに対して制裁を用意していることを宣言し、「銀行機密の時代は終わった」とまで宣言した。新たに見なおされたブラックリストは46法域に増加した。しかし、このリストも数年でもぬけの殻となった。2012年で、新ブラックリストに残っているのは5法域のみに減少したことになっていたのだった。(p.25)

《ユニタリ―タックス原則の重要性
・国際課税の原則には二つの対立する考え方がある。一つは現在OECD、多国籍企業が採用しているもので、「親会社と子会社は別個の会社である」というものである。これによって多国籍企業グループ内の取引価格を調整し、低税率国・無税国に利益をシフトするトランスファー・プライシングや金融取引、輸送、経営指導などの子会社、知的所有権などを保有する持株会社の設置が可能となる。公正なグループ間価格を算出する方法としてよく利用されるアームズ・レンクス原則は運用上恣意性の余地が高く不適切である。
・もう一つは、多国籍企業グループを一つの企業体と見なして課税、ユニタリ―タックス原則の採用を主張するものである。ここでは、徴求税額の各国への配分が問題になるが、総利益を資産、人件費、売上高等ごとに一定の方式で配分して課税する「定式配分方式」を採用する(EU議会が2012年に可決した「共通統合法人税課税ベース」)。タックスヘイブンを無くしてゆくには後者を実現してゆかねばならない。(p.225)

《タックスヘイブンは資本主義の聖域》
・税の回避の歴史は税の歴史と同じように古い。人間の欲深さと遵法の範囲内で節税を追求する合理性は人間の本性にも結びついている問題でもある。とは言えタックスヘイブンが本格的な成長を始めたのは19世紀末からのことであり、経済の独占資本主義化と植民地主義化の進んだ時期に符合する。
・著者がタックスヘイブンを「グローバル資本主義の聖域sanctuary)」と表現しているように、タックスヘイブンは資本による収奪を闇の中に埋め込む現代国際資本主義に不可欠なインフラシステム なのである。

《2012/13年サミットはどう変わったか》
・EU法人税課税ベースの域内統合可決(欧州議会2012年、p.224)
・「税源侵食と利益移転」を阻止する必要が盛り込まれる(2012年6月G20メキシコサミット)、以下の内容の首脳宣言(2013年6月G8ロックアーンサミット)
 ①世界中の税務当局は脱税と戦うため自動的に情報を共有する。
 ②国家は法人が租税回避のために越境することを許容するルールを変更し、多国籍企業はどの租税をどこで払うか税務当局に報告する。
 ③法人は真の所有者を把握し、税務、法務執行当局はこの情報を容易に得られる。
 ④途上国は自らに帰属する租税徴求に必要な情報と能力を持つべきであり、他国はそれを支援する。(p.226)
・「税源侵食と利益移転」に対処する野心的で包括的なOECDの行動計画を全面的に支持する。新しい国際基準としての自動的情報交換にコミットしOECDの作業を支持(2013年9月ロシアG20サミット、p.227)
・施策が効果的、それ故現状変更的なものになっている。

《開き始めた改革の扉…タックスヘイブン問題は私達の身近な問題》》
・しかし、国民が緊縮経済に苦しむ中で、巨額の税逃れにいそしむ巨大多国籍企業の赤裸々な姿を眼前にした世界の市民の怒りを背景に、ようやく2013年の先進国サミットやOECDにおいて、抜本的な改革の必要性についての認識が高まった。この改革の動きを一過性の政治的アジェンダに終わらせず、それを具体的に実現する道筋を切り開くことが、今私達に求められている。
・タックスヘイブン問題は、私達の身近な問題である。なぜなら巨大企業や富裕者による税逃れは、結局、勤労者への増税や社会福祉の切り下げ、途上国からの富の収奪として、私達に負担のつけが回されてきているからである。また、タックスヘイブンは国際金融危機を醸成するグローバル資本主義の聖域でもある。私達は、一人一人が問題の核心をつかみ、行動に立ち上がらなければならない。(P.14)
・論点としてはこの他に、本書の白眉である「タックスヘイブンがどのような金融商品に利用されているか(p.70)」、「NGO、市民運動の地道な調査活動が、今日のタックスヘイブン抑制運動を前進させてきたことがあり、更には、金融証券化にリードされ、金融危機の舞台となったタックスヘイブン(p.104)、途上国問題(p.124)、マネー・ローンダリング問題(p.150)、等があるが、ここでの紹介は割愛した。ぜひ原著で読んで欲しい著作である。

2014.11.11 森史朗

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コメント

森先生ご無沙汰です。アマゾンのネット通販で何とか売り上げカバーしている一小売業者ですが、10%以上の手数料を取りながら日本に納税していないとすると許されない思いですが実情はどうなっているかご存知でしょうか。

投稿: 林 勇治 | 2014年11月25日 (火) 16時08分

 林さん、コメントをありがとうございます。ご質問の点については、本書の「第7章タックスヘイブンと日本」のp.182-4「アマゾン社の事例」に書かれています。
 ①ネットによるamazon.co.jpとの契約は正式には米国シアトルを住所とするAmazon.com Int'l Sales, Inc.と結ばれている。②同社は支店を日本に持たず、所有するのは倉庫だけであり、「恒久的施設」に当たらない。③よって、同社は日本への納税義務を負わない。というのが米国およびアマゾン社の主張である。
 それに対し日本は、流通などを委託された日本法人が実質的に支店機能を果たしていたと認定、2009年、amazon.comに対して2005年12月までの3年間分について約140億円の追徴課税を行った。しかし、日米2国間協議の結果日本側の主張は退けられ、2010年に全額返還された。
 恐らく、今日も同じ状況が続いているものと思われる。今日の法解釈にこのような不合理な余地があるとしたら、今日のグローバル経済はルール変更をも含めた国際税制ガバナンスの再構築を必要としていると言えましょう。

投稿: 森史朗 | 2014年11月26日 (水) 22時32分

やはり。ありがとうございます。

投稿: 林 勇治 | 2014年12月14日 (日) 15時50分

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