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2013年5月26日 (日)

志賀櫻著「タックスヘイブン:逃げていく税金」を読んで

[《目次》
1.タックスヘイブンを活用した、大企業、富裕個人層の《節税?》《脱税》の実態に、元財務省官僚が警鐘
2.タックスヘイブンとは何か(タックスヘイブンで何が行われているか)
3.タックスヘイブンの役割を可能にする三つの特徴と、その多重的構造
4.タックスヘイブンとの闘い
・・・・・・
1.タックスヘイブンを活用した、大企業、富裕個人層の《節税?》《脱税》の実態に、元財務省官僚が警鐘

・著者の志賀氏は、大蔵省に入省後、主税局国際租税課長、主計局主計官、金融監督庁国際担当参事官兼FSF日本国メンバー等、タックスヘイブン問題に直接携わってきた。その著者が、「正直に税金を収めている市民の知らないところで、タックスヘイブンを舞台に所得分配の公平を著しく損なう悪事が行われているのである。その悪事による弊害はめぐりめぐって、市民の生活はおろか、一国の財政基盤をも揺るがし、さらには世界経済を危機に陥れている。…秘密のヴェールに包まれたタックスヘイブンの真相を解明し、タックスヘイブンのもたらす害悪に警鐘を鳴らすことが本書のメッセージである」としている。(本書P.4-5、以下頁のみを記す。)確かに本書は,タックスヘイブン問題について日本政府で責任ある立場にいた人による、卒直な批判的分析として稀有なものと言えよう。
・又、「過去においても問題とされてきたタックスヘイブン問題だが、これまではシティやウォール街の抵抗が強く骨抜きにされてきた。しかし、2001.9.11のテロ事件、2008年の経済危機を経て、タックスヘイブン問題に対する世論の見方は厳しさを大きく増している。更に金融安定化政策の下、緊縮政策を国民に強いているタイミングでもあり、各国の政府財界としても、税の捕捉率を高めてゆくことを検討せざるをえなくなっているようにも見える。
・わが国でのタックスヘイブンに対する関心はこれまではさほど高いものとはいえなかったが、財政赤字を口実に、社会福祉の切り捨てと消費税率の引き上げに取り組もうとしている時、志賀氏の警鐘に耳を傾け、タックスヘイブンを無くしてゆく国際的運動に日本政府として積極的役割が果たせるようにしてゆく必要があろう。
・尚、本書評は、志賀櫻氏著「タックスヘイブン―逃げていく税金(2013年3月岩波書店刊:岩波新書)」を評するものであるが、併せて、雑誌経済2012年12月号掲載論文、合田寛著「タックスヘイブン…グローバル資本主義の聖域」をも紹介している。両書を合わせ読むことによって問題への理解が深まると思われたからである。

2.タックスヘイブンとは何か(タックスヘイブンで何が行われているか)

・タックスヘイブン(Tax Haven)は、直訳すると「税の避難港」、意訳的には「嵐の際の避難港」のニュアンスを皮肉に含んだ「租税追求からの避難港」と言うところである。これをタックスヘブン(・・・)(Tax Heaven),「税金天国」と勘違いする話をよく聞くが、間違いやすいところなので、念のために記しておく。
・タックスヘイブンがタックスヘイブンとして機能するためには、いくつかの条件を満たす必要がある。志賀氏はまず、「タックスヘイブンで何が行われているのか」という観点からタックスヘイブンの三つの特徴を挙げている。
①高額所得者や大企業による脱税・租税回避(p.6)
・例:Double Irish with a Dutch Sandwich を利用したアップル社による租税回避(コンテンツの配信事業コストは世界のどこでも変わらなくなり、設備移転コストも小さい。そのため低税率国に配信拠点を移動することにより税率を10%以下にできた。全て合法の様子。情報は(ブログ)「MBA経営戦略入門」『ダブルアイリッシュ&ダッチサンドイッチ』による。
・本書によると、税金として納付されていなければならないのに、タックスヘイブン等に隠れ、納付されないでいる税金額のことを一般にタックスギャップと言うが、アメリカ内国歳入庁は、2001年のタックスギャップを、3,450億ドルと推定、この内2,900億ドルが徴求できなかったと発表した。合田寛氏は、イギリスの高級紙「ガーディアン」の数字としてタックスヘイブンは、約1600兆円の富を隠蔽していると紹介している。
②マネー・ローンダリング、テロ資金への関与(p.8)
・例:HSBCメキシコ支店による麻薬資金洗浄関与(2012年8月、中国系メキシコ人の自宅から約160億円相当の現金と多数の銃火器を押収。同支店は、2007年に2400億円相当、2008年には3200億円相当の米国向け現金送金を取扱っていた。米国で売却した麻薬代金の米国への還流送金と考えられている。情報は、(ブログ)「橘玲公式サイト」『マネー・ローンダリング:暴走の果てに―HSBCメキシコと米議会報告書』による。)
③巨額投機マネーによる世界経済の大規模な破壊(p.9)
・過去の経験、特に2008年の経済金融危機の経験から、各国政府は国際協調の下で金融機関がリスクを取り過ぎて破綻しないように規制の網をかけている。タックスヘイブンは、世界金融危機対応でのループホール(規制の抜け穴)の役割を果すことになる。(p/12-13)。

3.タックスヘイブンの役割を可能にする三つの特徴と、その多重的構造

・タックスヘイブン機能を無くさせるということは、タックスヘイブンの以下の三つの特徴(p.5)的機能を失わせてゆくことである。
①まともな税制がない(税金逃れ)
②硬い秘密保持法制がある(資金隠し)
③金融規制やその他の法規制が欠如している(規制逃れ)
・志賀氏は、OECD租税委員会による分類を使って、タックスヘイブンを実質、下記の3つに分類し、「遙か彼方の島々に目を奪われて、本家ロンドンのオフショア金融活動を見逃してはならない、タックスヘイブンの全容は、先進国の金融センターも含めた多重構造を全体として眺めることによって初めて理解できるのである」と指摘している。
①先進国の金融センター(ニューヨーク、ロンドン、東京)(p.40)
②島嶼型タックスヘイブン
③大陸のタックスヘイブン(スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン)(p.51)
・合田氏の分類は、IMFのルカ・エンリコ、アルバート・ムサレムによるもので、もっと機能的で、下記のように説明されている。(合田氏前掲書「見えざるネットワーク」)
・「69のタックスヘイブンはバラバラに存在しているわけではない。地理的、機能的にネットワークの網が張り巡らされ、重層的なグローバル・オフショア・システムを形成している。」
①プライマリーセンター(ロンドンのシティ、NYオフショア金融センター東京オフショア市場など、資金の源泉及び使途を扱い、企画する大規模センター)
②セカンダリーセンター(香港、シンガポール、ルクセンブルクなど資金の中継機能を司るセンター)
③ブッキングセンター(他の法域で行われた取引の記録に携わる、いわゆるタックスヘイブン)

4.タックスヘイブンとの闘い
①ネットワークは誰が動かしているのか
・合田氏の論文への書評を書いた時、「最後に本論考全体を読んでの感想を述べる。」として、私は以下のように書いた。
・《第一には、タックスヘイブン問題が今日の世界経済において、どれほど重要な位置を占めるか分かりやすく述べており、とかくこの問題を軽視しがちな国民に警鐘を鳴らしたことである。タックスヘイブン及びオフショア金融センターは、新自由主義的グローバル資本主義に欠かせないインフラを構成するのであり、逆に、格差の小さい、暮らしと労働を大切にする民主主義的グローバル経済社会を作っていく上では、克服すべき悪しきインフラとなる。具体的には、タックスヘイブンをシステムとして捉えることが大切である。タックスヘイブンにいくら資金を集積してもそれだけでは意味が限られている。集積された資金は投資(あるいは投機)され、利益を生み出さなければならない。しかも他地域での運用より高い利回りで、である。こういう視点で見た時に、これらのシステムは、国際金融センターを司令塔にし、島嶼部のタックスヘイブンをブッキングセンターとするネットワークとして捉えられる。タックスヘイブン問題を島嶼部の問題に矮小化することの誤りが明らかにされているのである。》
②国際金融界の抵抗を国際協調の中で抑えてゆく
・《…第二には、その時々の政府を通しての国際金融界の干渉によりタックスヘイブン問題の解決が遅れていることである。それだけ、タックスヘイブンの存在が金融界にとって重要であることを意味する。》タックスヘイブンは、現代グローバル資本主義の下での金融業務を成り立たせる上で不可欠のインフラとなっており、タックスヘイブンはグローバル資本主義の中核的問題なのである。
・公正な国際的納税制度を国際的専門家チームに諮問し、グローバルな協調の下に実現してゆくことが必要となっている。
・この問題を解決するためには、公正な会計手法を企業会計に導入し、具体的には企業や個人の、生産、販売、投資、運用の実態を捕捉し、正当な納税額をそこから明らかにしてゆくこと、そして各国の協調のもとで徴税率を高めてゆくことが求められる。
・同時に、金融機関会計にあたっても、国際的合意に基づいたリスク評価を行い、リスク状況の監督機関への公正な開示を行い、過大なリスクの取り込みの制御が求められる。
③「タックスヘイブン」後の経済再生
・汚職等による、途上国からの不法資金の流出、タックスヘイブンでのそうした資金の受け入れの中止、正当な政府等への返金が検討されなければならない。
・その意味では、また、発展途上国の民主主義的国家建設の支援の問題でもある。
・タックスヘイブン業務を放棄させることが、途上国の経済を後戻りさせるのでなく、必要な農水産業、鉱工業の発展を促す開発政策と資金支援計画を伴うものでなければならない。
・それをどう実現して行けるかが問われているのであるが、志賀氏も述べているよう、《タックスヘイブンの真の問題は、タックスヘイブンの存在そのものであるだけでなく、そのタックスヘイブンを舞台に行われている悪事、そしてその悪事によって不必要な金融危機が世界的規模で繰り返し引き起こされていることである。現在、国際機関や専門家のグループが、日々この問題に取り組んでいるが、各国の諜報機関さえ見え隠れするこの問題では、国際機関といえども実態を把握するのは難しい。》
・そこをいかにしても打開してゆかなければならないのである。志賀氏は、「税は文明の対価である」という言葉で納税のモラルを強調しているが、日本の大企業、その経営者を中核にした富裕層の人々には、日本経済をどう立て直してゆくのかについての責任が問われているとも言えよう。(p.226)しかし、元々税負担の問題は国家の基として国民全体にそのあり方が問われてくるのである。

書評:合田寛著「タックスヘイブン:グローバル資本主義の聖域」を読んで
 → http://izumi-tsushin.cocolog-nifty.com/blog/2012/11/post-8bde.html 

以上、

森史朗 2013/05/25 和泉通信ブログ

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コメント

志賀櫻先生、すごいですよね。
わたしは9月に出た最新刊の
『タックス・オブザーバー』を読みました。


投稿: | 2015年10月 9日 (金) 06時12分

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