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2012年11月19日 (月)

書評:合田寛「タックスヘイブン:グローバル資本主義の聖域」を読んで

 「経済2012年12月号」(新日本出版社11月8日刊)に、合田寛さんのタックスヘイブンをテーマにした掲題論稿が掲載されたので早速読んでみた。合田さんは昨年末に、「格差社会と大増税」という「税と社会福祉の一体化政策」を批判する著書をタイムリーに出版され、当ブログでも紹介した経緯があった。今回合田氏は国際税制の大問題でありながら余り深められて来なかったタックスヘイブン問題に取り組み、素朴な問いかけから入りながら、問題の本質に鋭く切り込んでいる。先ず、目次は以下の通りである。

1.タックスヘイブンとは何か
2.想像を超える規模
3.見えざるネットワーク
4.タックスヘイブンは世界をどうゆがめているか
(1)タックスヘイブンと金融危機
(2)タックスヘイブンと税の回避
(3)タックスヘイブンと途上国
(4)タックスヘイブンと国際的犯罪
5.タックスヘイブンのネットワークは誰が動かしているのか
6・タックスヘイブンとのたたかい

 どれも、誰もが持つ疑問である。合田氏は、内外の豊富な資料を分析し下記のように答えている。(以下、合田氏の論稿の概要を紹介するが、要約するにあたって、引用は自由な引用をさせていただいた。)

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《合田寛:タックスヘイブン…グローバル資本主義の聖域、》(新日本出版社刊「経済2012年12月号」)要約

 「はじめに」
 ここで著者は最近起こったタックスヘイブン絡みの2つの事件を紹介し、問題の大きさを提示している。一つは米国アップル社が、世界中で上げた利益をアイルランドにに集中し、同地の2社の間にオランダを入れてカリブ海のタックスヘイブンに移されていたことがわかったという事件。グーグル社、アマゾン社、マイクロソフト社等米国の名だたる企業が同じ手口を利用していた。もう一つは英国に本社を置く世界最大規模の銀行、香港上海銀行(HSBC)が、麻薬取引による不正利得の米国への資金還流に際してマネーロンダリングに関わったことが報道された。HSBCメキシコ支店はケイマン諸島に6万もの口座を持っていたことも明らかになっていた。

1.タックスヘイブンとは何か
 Tax Haven は直訳すれば、「税の避難所」と訳すことになるが、多国籍企業やメガバンクなどのタックスヘイブン利用の狙いは、単に課税回避にとどまらず、より広範に居住国の規制を逃れることにある。…筆者はタックスヘイブンとニューヨーク、ロンドン等にあるオフショア金融センターは本質的に同じものであるといっているが、オフショア金融センターは居住者通貨と非居住者通貨を分別管理することを條件にタックスヘイブン機能を先進国に取り込んだものと言え、そうした観点から両者(タックスヘイブンとオフショア金融センター)をあわせてタックスヘイブンとして捉えていく必要があろう。

2.想像を超える規模
 英国紙ガーディアンは7月、世界の超富裕者がオフショアを利用して21~32兆ドルの富を隠蔽していると報道した。この報道はタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)が今年7月にまとめた報告書に基づいている。21兆ドルは日米のGDPを合わせた金額に匹敵するものでありにわかに信じがたいほどの金額であると、合田氏は驚きを隠さない。また、世界の対外直接投資の3分の1、国際貿易取引の半分以上がオフショア経由で投資されているという。
 
3.見えざるネットワーク
タックス・ジャスチス・ネットワーク(TJN)によると、世界には69の広義のタックスヘイブンが存在している。そしてそれらはバラバラに存在しているわけではなく、地理的、機能的にネットワークの網が張り巡らされ、重層的なグローバル・オフショア・システムを形成している。プライマリーセンター(先進国の大規模オフショアセンターなど、資金の源泉及び使徒を扱う)、セカンダリーセンター(香港、ルクセンブルグなど資金の中継機能を司る)、ブッキングセンター(海外取引の記帳を行う)の三つに分けて連携を見る見方が重要であろう。タックスヘイブンに資産を集めても資金を寝かせたままでは、意味が無い。集めた資金を効率高く運用できてこそ意味があるのである。

4.タックスヘイブンは世界をどうゆがめているか

(1)タックスヘイブンと金融危機
 タックスヘイブンは、世界の金融システムを不安定にしている。2008年の世界金融危機は、サブプライムローンとその証券化に際して投資銀行は別働隊として特別目的会社(SPV)を利用した。それらのSPVは、多くの場合本体の銀行から切り離され、規制がゆるく税負担の軽いオフショアに設立される。…タックスヘイブンは、証券化やSPVの活動に最適の環境を与えることによって、金融投機と金融システムの不安定化に一役買っていることになる。.「オンショア」で負債が集積される一方、「オフショア」でSPVが社債を発行し低コストの資金を集める。こうしてタックスヘイブンは、目立たない方法で負債のレベルを引き上げ、証券化商品市場の急拡大を助長した。

(2)タックスヘイブンと税の回避
 では、タックスヘイブン本来の目的である税の回避規模はどのくらいなのだろうか。タックスヘイブンを経由して富裕者が持っている資産量は21~32兆ドルと予想された。これを前提に失われた税収を計算すると5~7千億ドルとなる。このほか移転価格による減収は年1600億ドルとの推計がある。

(3)タックスヘイブンと途上国
 途上国にとってタックスヘイブンの弊害は課税回避よりも資本の不法流出である。グローバル・フィナンシャル・インテグリティー(GFI)の2000年から09年にかけての報告によると、不法流出は、2009年に前年比減少した以外、毎年増え続けている。この3年の平均を取ると年平均1兆ドルを超える不法資金が流出しており、2011年の政府開発援助(ODA)総額1,330億ドルと比較するとその額は7.5倍にも当たる。移転価格によるものが60~65%を占め、麻薬取引などの犯罪資金が30~35%、公務員による収賄窃盗に関わるもの3%程度と言われている。重要なことは、これら139カ国からの資本流出のうち、12兆ドル以上については欧米の国際的プライベートバンクが積極的な役割を果たしていると報告されていることである。

(4)タックスヘイブンと国際的犯罪
 冒頭、HSBCの事例が示したように、巨大銀行が犯罪資金のマネーロンダリングに関わるケースは後を絶たない。

5.タックスヘイブンのネットワークは誰が動かしているのか
3節で述べられている通り、タックスヘイブンはネットワークとして存在しており、そしてそれを動かしているのはニューヨークにある大手のマネーセンターバンクであり、ロンドン・シティの巨大銀行である。タックス・ジャスティス・ネットワークはまた、オフショアセンターの実体は、タックスヘイブンが生み出した税や規制の優遇措置などのメカニズムを利用しようとする者に対してサービスを売る会計士、銀行、信託などであり、オフショアセンターの規制の焦点は個々のタックスヘイブンにではなく、オフショアセンターの力と影響力に向けられなければならないと主張している。

6・タックスヘイブンとのたたかい
 タックスヘイブン規制への本格的取り組みが開始されたのは1998年リヨンサミットからである。OECDがその要請に応じ「有害な税の競争」の報告書を提出したが、その手段は一定の認定基準を守らない国・地域はブラックリストに載せていくというものであった。しかし、OECD等の国際機関による取り組みは「情報交換の進展」などを理由にしたブラックリストからの取り下げで効果を減じて行った。ブッシュ政権や右翼シンクタンクの抵抗もOECD等による取り組みを弱めた。2009年のG20ロンドンサミットではタックスヘイブンに再び焦点が当てられ制裁も歌われたが、結局今日に至っても実質的な進展は見られない。最後に、合田氏はタックスヘイブン規制を適切にすすめるための課題を7項目あげている。
①OECD主体の取り組みでなく、国連主体の取り組みへ: タックスヘイブンを動かしているのはOECD加盟の主要国金融センターであり、また、OECDには途上国が参加していない。タックスヘイブン規制のために最も適切な国際機関は国連である。現在国連の経済社会理事会のもとに、税をめぐる国際協力の問題を扱う専門家委員会が活動しているが実質的な成果は見られない。「スティグリッツ国連報告」(2009年)でも指摘されているが、担当機関のアップグレードが必要である。国連経済社会理事会もその必要性を認め、三つの選択肢を提案している。
②ブラックリスト方式から脱皮し、制裁措置を伴う多国間相互主義的取り決めが必要: 二国間協定による情報交換の進展があればブラックリストから外すという政策では有効な規制とはならない。
③親たるオンショアの金融センターのコントロールが必要: 島嶼部にある小規模タックスヘイブンは、ほとんどが金融センターのコントロール下にある。したがって規制は島嶼部タックスヘイブンというより、金融センターとそこで活動する銀行、多国籍企業等に対して行われるべきである。
④秘密性の打破と透明度の引き上げが必要 :情報は2国間の要求ベースでなく、多国間で自動的に提供されなければならない。
⑤多国籍企業による取引詳細の会計報告への記録:移転価格による課税回避を防止するため取引地、利益取得地、資産保有地、租税支払地を明示するもの。この点で多国籍企業に国別の開示を求めていない国際会計基準、米連邦会計基準は改正が必要。
⑥タックスヘイブンを不法に利用する多国籍企業に対して契約打ち切りの制裁も辞さない: 米国会計検査院はタックスヘイブンを利用して課税逃れをしている米国の大半の多国籍企業が同時に連邦政府との契約関係にあるという報告をした。
⑦タックスヘイブンはグローバル資本主義の中枢部に巣食う病巣: タックスヘイブンは金融危機、財政危機、国際的犯罪などあらゆる混乱の原因となっている。悪しき税の競争は先進国間の税の引き下げ競争もたらし、そのしわ寄せは、勤労者への税負担の重圧となって跳ね返っている。直接投資や移転価格税制などを悪用した多国籍企業の行動は、援助を上回る資金流出を途上国にもたらしている。タックスヘイブンに対する戦いは、現代グローバル資本主義似対するたたかいの欠かすことのできない重要な部分である。

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 最後に本論考全体を読んでの感想を述べる。

 第一には、タックスヘイブン問題が今日の世界経済において、どれほど重要な位置を占めるか分かりやすく述べており、とかくこの問題を軽視しがちな国民に警鐘を鳴らしたことである。タックスヘイブン及びオフショア金融センターは、新自由主義的グローバル資本主義に欠かせないインフラを構成するのであり、逆に、格差の小さい、暮らしと労働を大切にする民主主義的グローバル経済社会を作っていく上では、克服すべき悪しきインフラとなる。著者の「タックスヘイブンは、グローバル資本主義の中枢部に巣食う病巣である」という表現がピッタリする。

 具体的には、タックスヘイブンをシステムとして捉えることが大切である。タックスヘイブンにいくら資金を集積してもそれだけでは意味が限られている。集積された資金は投資(あるいは投機)され、利益を生み出さなければならない。しかも他地域での運用より高い利回りで、である。こういう視点で見た時に、これらのシステムは、国際金融センターを司令塔にし、島嶼部のタックスヘイブンをブッキングセンターとするネットワークとして捉えられる。タックスヘイブン問題を島嶼部の問題に矮小化することの誤りが明らかにされているのである。

 第二には、その時々の政府を通しての国際金融界の干渉によりタックスヘイブン問題の解決が遅れていることである。それだけ、タックスヘイブン問題が金融界にとって重要であることを意味する。

 以上、合田氏におかれては、今後もこの問題について継続してフォローして行っていただきたい。

 森史朗 2012/11/19

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