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2011年10月18日 (火)

広がる国際準備通貨問題の議論とパソードの覚書試訳

1.世界に鬱積する民集の不満と3つの問題
 昨年12月に北アフリカ、チュニジアのジャスミン革命に端を発した貧困と格差と失業の解決を求める民集の運動は、欧州の政府債務問題に伴う社会保障の切り下げ、長期化する米国での高い失業率(9%強)、米国連邦債務上限引き上げ法案に伴う社会保障カットへの動きに対抗して、全世界に広がってきています。日本では街頭行動は、まだ活発とは言えませんが、東日本大震災の被災者のみならず、国民全体が不満と鬱積感を抱えています。
そんな中で国際的に広がってきている考え方が、三つあります。

① 経済と社会問題の中核をなす雇用問題
 一つは、雇用を社会の中に居場所を見つける、人間の尊厳の中核と位置づけ、労働条件の改善と、失業の削減を推進しようとするものです。EUでは早くから取り組まれてきましたが、現在はILOが、ディーセントワークの課題として取り組み、国連として世界レベルで取り組まれています。

② 金融業務の優越的地位の見直しと正当な役割と処遇の回復 
 もう一つは、その機能と位置から収益力が高く、失敗しても税金で救済してもらえる産業となってしまっている金融業を、投資と貯蓄を効率よく結びつける潤滑油役という本来の役割に回帰させることです。最近EU委員会で採択され、米国でも議会に提出された金融取引税はその具体化の一例です。

③ 超国家的国際準備通貨制度への移行
 三つ目は、米国の覇権体制を支える仕組みの一つであり、貧しい国から豊かな国へ富の移転を行う仕組みとなっている、現在の米ドル単一基軸通貨制ないしは米ドル・ユーロ複数基軸通貨制から、超国家的国際準備通貨制度に移行してゆくことです。この問題は、まだ十分な議論がなされておらず、コンセンサスができていませんが、その結果が上述した二つの問題の解決にも大きな影響を与える重要なものです。
米ドル単一基軸通貨制の問題はこれまでも話題になって来ましたが、今回の危機が今までになく深く長期に及ぶものになったこと、その危機が米国発であったことから、国際通貨制度に対する率直な批判が行なわれるようになりました。今日は、最近の二つの新聞で採りあげた国際金融制度改革についての記事をご紹介します。

2.最近の新聞での国際準備通貨問題の採り上げ例
 ①小此木潔朝日新聞編集委員、記者有論 2011/08/13
   「ドル没落:世界通貨の創出を語ろう」
→ 「同上(1)」
→ 「同上(2)」
 ポイントを抜粋して紹介すると・・・:
「米ドルの没落が、世界と日本を揺さぶり続けている。この危機を越える究極の策は、グローバル化の時代にふさわしい世界通貨を人類の英知で作り出すことだ。・・・
 ・・・ドルが基軸通貨でありえたのは、世界経済の中心国としての圧倒的な強さの反映だ。・・・
 ところが欧州連合(EU)の誕生に続き、BRICsと呼ばれる中国、インドなどの台頭で世界経済は多極化の時代を迎えた。一国の通貨が基軸通貨であり続ける条件が失われつつあるのだ。・・・
2度の世界大戦の間にドルとポンドが並び立ったように、基軸通貨が複数になることも考えられなくはない。だが、ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授(米コロンビア大)は、それは「より不安定なシステムになってしまう」と説く。
 「結局のところ、特定の通貨に依存しないグローバル紙幣が必要だ」と、新たな世界通貨の創出を語っていた。
 この考えは09年、国連が慰問した専門家委員会による「スティグリッツ報告」に盛り込まれた。国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)を発展させ、主要通貨のバスケット(加重平均)などで世界共通の通貨創出を求める内容だ。・・・
 基軸通貨の特権を守りたい米国の賛同は難しい。だが世界銀行のゼーリック総裁も昨秋、英紙フィナンシアル・タイムズへの寄稿で「ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元を含む新通貨システム」の構想を20ヶ国・地域(G20)の首脳らが討議するよう提案した。こうした議論を今こそ進めるべきではないか。
 目先の対策として、協調介入などで為替相場の乱高下を抑える努力も必要である。しかし、抜本的な改革に挑まない限り為替と世界経済の動乱の時代は終わらず、雇用も生活も脅かされ続ける。」
 ②しんぶん赤旗経済部、山田俊英、2011/10/13-15
  揺れる国際通貨「ドル支配の見直しすすむ」「『真の準備通貨』を模索」
   「『脱ドル』へ地域で試み」
 これも抜粋して紹介します。(ネットにはリンクしていません。)
「ドルの下落、米国の債務危機で世界の基軸通貨ドルの信認が低下しています。ドルに代わる国際準備通貨を模索する動きも強まっています。
国連貿易開発会議(UNCTAD)は、実需部門が金融に支配されていることを世界経済の撹乱要因に挙げ、ドル支配がまだ覇権主義的役割を保っていることを原因の一つと指摘しました。・・・
世界銀行が5月に発表した報告書『世界開発の展望2011…多極化・新しい世界』は、新興国の台頭によって国際準備通貨でも『多極化』が今後の趨勢になると予想し、将来のシナリオとして①ドル基軸がこのまま続く、②ユーロや人民元を含めた多極的な体制になる、③新しい単一の国際準備通貨が生まれるーの三つを挙げました。
このうち『最も可能性のあるシナリオ』としたのが、②の多極的通貨体制です。・・・新しい準備通貨の必要性については、08年の世界的金融・経済危機を受けて09年にまとめられた国連専門家委員会(ジョセフ・スティグリッツ委員長)報告が強調しました。米国の通貨であるドルを基軸通貨とするためには、国際準備通貨として世界で流通するドルが必要であり、それは米国の国際収支赤字を拡大し、結局ドルの信認を侵すという矛盾を生じるとスティグリッツ報告は指摘しました。特に、1971年のドル金交換停止により、この矛盾はドル相場の不安定さにつながったと分析しました。ドル準備通貨制度はぼろぼろになりそうだと報告書は述べ、根本的な解決の道として、真の国際準備通貨の導入を提言しました。
 スティグリッツ報告は複数の国際準備通貨が併存する多極的な体制に対し、現行システムの困難を解決できないと否定的な見方を示します。報告書は真の国際準備通貨制度の創設の際の枠組みをいくつか提案します。有力視しているのは、IMFのSDR使う方法です。ドルの信認の低下につれ、中国、ブラジルなどの新興国からSDRを国際準備通貨として活用すべきだとの声が上がってきています。
 スティグリッツ報告が、将来、国際準備通貨に進化する道を示したと注目した取極めは、ラテンアメリカ準備基金(FLAR)とチェンマイ・イニシアチブです。アジア通貨危機の際、ASEANや日本がアジア通貨基金構想を提唱したときは米国が自国抜きの動きに反対して潰しました。しかしその後、新興国が経済力をつけ、政治的発言力を増したことで米国はアジア独自の動きに反対できなくなりました。ドル依存から抜けだそうとする試みは世界の流れになっています。」

3.議論の中心になっている「スティグリッツ国連報告」と今回の
  パソード「国際通貨問題についての覚書」(試訳)について
 活発になってきた国際準備通貨制度についての議論ですが、やはり検討の出発点となっているのは『スティグリッツ国連報告』になっています。2010年の終わりから2011年の初めにかけてスティグリッツは、ジャン=ポール・フィトゥッシ等とパリグループを組織し2011年11月に開催されるカンヌG20へ向けてのサルコジ大統領からの諮問に答えました。第一部の委員長による総括報告の部分は、すでに翻訳をしたものを当ブログに掲載していますが、今回は、第二部4章「国際金融システム改革」から、アヴィナッシュ・パソードの「国際通貨問題についての覚書」を試訳として掲載ました。読者からの依頼が強かったことと、国際準備通貨問題に独自の提案を持っていることで知られているということもあり取り組んだ次第です。英文でA4サイズ2ページ強という短いものですが、それゆえに翻訳しても意味がはっきりしないところもあり、『試訳』としたものです。折しも国際準備通貨問題についての議論が高まっている時でもあり、翻訳の誤りや、その他の文献から読み取れる解釈などがあれば、ご指摘・ご紹介ください。
 訳文は段落ごとに和文と英文を並置してあります。尚、今回の翻訳も「パリグループの提言」第一部と同様、合田寛氏に監訳いただきました。翻訳文を読まれる方は下のPDFのダウンロードをしてください。

→ 「persaud-note-on-the-intl-monetary-problem.pdf」をダウンロード

以上、

森 史朗、和泉通信 2011/10/18

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