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2011年5月19日 (木)

21世紀のグローバル・ガバナンスへの課題…パリグループ提言を考える

 5/19に本論考を掲載してからまもなく文章の中のいくつかの誤りに気づきましたので、訂正致しました。最初の7項には訂正はありません。8ー10項のみに訂正(下線)がありますので、その部分だけでも目を通していただけると幸甚です。
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 この5月初め、「サルコジ大統領からの諮問に対するパリグループ提言」の発表をしてから、消化不良のようなものを感じてきました。「そこで、「提言」をベースに、国連報告も踏まえ、自分なりに問題を整理してみました。結果的には原典からの引用の塊みたいなものになってしまったようにも見えますが、読みやすく整理されたところもあると思います。

《目次》
1.諮問の経緯と本書の構成
2.グローバルガバナンス組織として決定的転換点にあるG20
3.効率の良いグローバルな利益の実現と、新自由主義批判
4.世界総需要のマイナス要因となる所得格差と、外貨準備高需要
5.貯蓄と高利回り分野のとの間の資金循環の重要性
6.経済実績と社会発展についての適切な尺度による評価と実行
7.G20は国際通貨金融システムの包括的見直しを開始すべきだ
8.進んだ金融部門改革
9.開発計画
10.グローバルガバナンスの改革
本記事は、A4版1枚につき、1ページの設定で印刷ください。

《 21世紀のグローバルガバナンスへの課題
…パリグループ提言を考える 》

1.諮問の経緯と本書の構成
 今年のG20の当番国はフランスである。そのサルコジ大統領が主宰役を努めてゆく上で参考にするために、二人の経済学者を議長役に諮問をした。その二人とは、フランスの経済研究所OFCEの代表を1990-2010に渡って務めたフィトゥッシ教授と、米国コロンビア大学のスティグリッツ教授であった。諮問委員会のメンバーは、総勢23名であるが、そのうちの11名が国連のスティグリッツ委員会のメンバーだったのである。スティグリッツは当然ながら、フィトゥッシ教授もその有力なメンバーであった。2009年には国連に足場を置きながらG20からは一線を画されていたスティグリッツ達であったが、今度はG20の議長国大統領を通じて世界に発信することになった訳である。諮問委員会は、自身をパリグループと呼び、その報告は1月6日、サルコジ大統領に対し直接行われた。そしてその内容は、1月24日大統領記者会見でのG20での優先課題についての発表に反映された。その後、Ebook(PDF)に文書化されたものが2月に発表されたというのがこれまでの経緯である。

 この原典は「スティグリッツ国連報告」と同様にA4版で約140頁の量を持つ報告であるが、後者が140頁を通し、一貫した報告となっていたのに対し、前者は議長席による前書きと報告要旨で、第一部をなし(約22頁)、メンバーによる準備文書が第二部をなす(約110頁)構成となっていた。私は結局、前文と議長席による総括文書を取り敢えず翻訳し、皆さんに供したいと考えた。4月14日-15日にかけ、G20財務相・中銀総裁会議が開催されたが、翻訳が遅れ、5月に入ってのブログ掲載となった。

2.グローバルガバナンス組織として決定的転換点にあるG20
 前書きの冒頭で、フィトゥッシ、スティグリッツの二人は、G20の課題の今日的焦点を以下の一言にまとめている。「新しく効率的な、グローバルガバナンスへの道を切り開いて前進するのか、或いは、談話と厳かな宣言が行動をリードするもう一つのただのGn(何カ国かによる有力国会議)になるのか。G20は、今、決定的な転換点にある。」というのだ。G20は2008年終わりから、2009年初めにかけて世界経済危機への対応に於いて大きな成功をおさめた。協調しながら、強力な景気刺激策を実行し、保護主義的手段を回避することによって、その時点で危機がもう一つの大恐慌となることを回避できたとまで、二人は当時のG20の果たした役割を評価している。大恐慌を大恐慌に至らしめた大戦間時代の非協力主義政策に直接対比して見ると、今日求められているものは、例え対処に関与している機関が弱点を持っていたり、正当性を欠いたりしていても、可能な限り最高の、世界レベルでの協調であったということが良く分かったというのである。素直な事実認識への姿勢を感じさせるところである。ところが、それ以降、状況や認識の著しい分岐が生み出されてきた。その結果、G20の結束感といったものは空気のように消えてしまった。そして、やはり前文で、二人は「世界が今日直面している危機は、各国の経済が強く相互依存しあっているということを忘れて、あたかも各国が特定の問題を解決するに際して他国に影響を与えることが無いかのように対応し、彼等がその経済政策を『再国家主義化(renationalization仮訳)』していることにある。」としている。これも先に述べた素直な事実認識への姿勢ゆえ可能となったものと言えよう。その上で、危機の再発や、多くの世界の公共財の破壊の双方を回避するためのG20の責任が大きいとし、「G20は、我々をこのような状況から抜け出させ、より持続的な成長が可能な未来をつくり、環境にもっと優しく、そして生産された果実が国内的にも国際的にもより公平に配分される、そんな動き方をすることができる。さもないとG20は、課せられた課題を果たさなかったとして、歴史の前に責任を負うことになるであろう。」と厳しく迫っている。

 尚、「1.切迫した状況」で、「あれほど強力に見えた諸国間の結束が失われた理由を説明する要因は沢山あるが、中でも二つのことが、将来の政策設計に与える影響力という点で、特に重要である」とし、一つには、公債の持続可能性への懸念が大きくなってきたこと(健全な公債発行国のものを含め)を挙げ、今一つには、競争力への懸念から、経済の需要サイドより供給サイドの方が重視されるようになってきたことを挙げている(減税、規制緩和等により投資を促進しようとする新自由主義的政策)。この二つの要因が結びつくことによって国の政策が内向的性格を強め、結果として国際的には非協調的になる潜在性を高めているのである。

3.効率の良いグローバルな利益の実現と、新自由主義批判
 「2.何がなし得るか」では、パリグループが今日の中心的経済問題と考えている課題、すなわち提言の課題となっていることが、全てグローバルな問題であり、そこに於いて、グローバルな利益と各国の利益の一致を見出すことの難しさが述べられている。そして、グローバルな利益を各国で争い、ある種の均衡を作ったとしてもそれは非効率で近視眼的な均衡でしかない。この問題を解決するためにはグローバルな集団的活動を通して、グローバルな利益を共感することが、積極的な利益/コストシェアリングによる効率の良いバランスの目標を持つことにつながるとしている。提言の記述はもう少し曖昧であるが、私は、このように読み取った。というのは、国連報告では、世界を幸せにするグローバリズムは可能であると明言しているからである。すなわち、「我々は、その多くの不利益がもたらすコストを負担すること無しに、国際化の利益を得ることができるか、我々は国際経済を世界中のほとんどの国民の福利が増進するような方法で管理できるか、」という問に対し、「我々は、それは可能だと考えている、我々は国際経済を嘗て自分達が管理していた時より格段に上手にやることができる」、と答えているのである。

 また、新自由主義に対する批判的立場は今回の提言でも、以下のように堅持された。「危機自体が、市場経済について疑いを挟んだ。特に危機は、自由な市場は必ずしも効率的でも、安定的でも、自己修正的でもないことを明らかにした。これらの信念に基づいた自由化と規制緩和の政策は、危機をもたらし、危機をあっという間に世界に拡げた。市場の失敗が一般化した。社会と個人、経費と便益がしばしば良く整合していなかった。」
 
 「スティグリッツ国連報告」及び、「パリグループ提言」のこうした議論を見ていて気がつくのは、経済について検討するとき、そこには必ず効率性と共に、公共性/社会性が倫理観といえるほどしっかりと前提にされているということである。いわゆる人間のための経済学である。しかもそれが、客観的効率性の概念としっかり結び付けられているということである。主観的認識に依存しすぎた場合の脆弱性を回避しているのである。

4.世界総需要のマイナス要因となる所得格差と、外貨準備高需要
「3.マクロ経済的協調」では、国連報告を引用しながら、以下のように述べているが、所得格差と外貨準備高需要が効率面でも問題があることを論じている。
 「脆弱な世界の総需要の原因となる基本的問題も悪化した。国連諮問委員会は、高いレベルの格差と大きい外貨準備高需要を二つの重要な要因として特定した。ボーナスでさえ目覚しい速さで回復してきたのに、高い失業率が労働の価格交渉力を弱める原因となっていた。ある先進国では、政府がこういう状況を利用して、労働力市場の弾力化を進め、社会福祉を弱めることを目指す(危機以前の)プログラムを遂行しようとしている。これらの仕組みが危機の最悪の結果から経済を守るバッファーになっているにも関わらず…である。結果は少なくともいくつかの国では、既に高いレベルにある格差が一層拡大していくリスクの発生である。前世紀末から始まった外貨準備高の著しい積み増しは世界の総需要を弱めた。各国が外貨準備高として別にしているマネーは、各国が使う予定のないマネーである。」

 今回のG20財務相・中銀総裁会議でもフランスは世界経済の不均衡是正、米国の過剰流動性への批判をしている。日本の復興需要には配慮がなされるはずだが、新自由主義に回帰することでは、危機からの脱出も東日本の復興も実現できない。

5.貯蓄と高成長分野のとの間の資金循環の重要性
 国際収支不均衡の結果としての外貨準備高を含め、総じて貯蓄の増加を一方的に批判する動きがあることに対し、貯蓄自体に問題はなく、資金循環に成功していないことにあると以下のように指摘している。

 「貯蓄と高成長の分野との間の資金循環が重要である。ここには、広く誤って導かれた、世界の問題は貯蓄の余剰から起こっているかの如く(例えば中国のように)公式化されたところがある。そこには、中国にもっと消費をするように求める勧告まで付いている。世界は直面しているあまたの問題を解決するためもっと多くの投資を必要としている。問題としては、気候変動への対応、貧困、大きな構造的な変化への対応(例えば、現在経験中の『都市化』)等があげられる。危機は貯蓄の過剰から起こるのではない。そうではなく、貯蓄を社会還元の高い分野に資金融通することに民間金融市場が失敗することから起こるのである。」

 パリグループの今回の提言では、リスクシェアリングのための組織的取極めの創設を含んでおり、そのためここでの貯蓄者はリスクを負う必要はない。こうして、一般預金預入者の預金リスクをほとんどゼロにし、一方でそれらのリスクを引き取る専門投資ファンドを創設することによって資金循環をつくりだすのである。後に述べるように、SDRのような外貨準備高を運用できるようにすることが、国際通貨金融システム改革の課題の一つとなっているのも同じ流れから来ているものである。

 ここに提案されているものは、それぞれ景気刺激政策の性格を持つものであるが、国債発行残高の増加への懸念から緊縮財政への動きも強まる中、パリグループは、一層の景気刺激策を求めている。例えば、欧米政府に対しては、「自国だけで何ができるかを考えるだけでなく、強力で持続可能な成長政策を維持することが不可避の課題となっていると考える。米、独、仏のように低金利調達ができ、高成長の公共投資機会(教育、インフラ整備、科学技術等)を持っている国は、例えそのために、短期的な赤字を増やすことになってもそうするべきである。このような投資は、失業を減らし、経済を成長させるだけでなく中期の国内の債務対GDP比率を下げたかもしれない。支払い利子の増大を相殺する以上に経済が成長し税収が増えるからである」というのだ。「結局金融機関を救済するためにとられた非伝統的で革新的な手段が付随的なリスクを伴いながらも金融市場の崩壊を回避させた」ように、「同様な確固とした非伝統的で革新的な手段が経済成長と雇用の回復のためにとられなければならない。」という具合である。

6.経済実績と社会発展についての適切な尺度による評価と実行
 「時々、気候変動や開発推進問題は、先送りされるべきだという議論がなされる。欧米における議論の焦点は経済の回復であるべきだ」というのである。パリグループは、この考え方は誤りだと反論する。「これらの分野への投資こそが復興の中心となり、成長の潜在力を増大させながら、それらはニューウェイブの技術的前進の出発点となるのである。経済復興と気候変動の解決は、補完関係にあり、代替関係にあるのではない。」と。

 短期と長期の投資を適切に進めるためには、双方の投資実績が適切に評価されなければならない。そのためには一層の評価方法の開発と、幅広いデータ入力を通し検証された経済実績・社会発展のより良い尺度の開発が必要となる。適切な測定は、例えば危機以前であっても、いくつかの国は成長を示しているようでありながら、実際、ほとんどの国民は所得の減少或いは停滞の中にあったことを示し、少なくともある状況のもとでは、実現されつつある成長が山のような負債に基づいており、持続可能性を欠くという重大なリスクを明るみに出すことになったであろう。

 パリグループがG20として支援することを提言している「経済実績と社会発展の尺度についての国際諮問委員会」は、その仕事の中で、私達は福利の幅広い尺度を開発する必要があるということも強調していた。雇用とディーセントワーク(ILOが推進中の、権利が保障され、十分な収入を得、適切な社会的保障のある生産的な仕事…訳者)は経済安全保障と同様大切である。それは単に所得を生み出すためだけのものではなく、それが支える尊厳と自尊の意識のためでもある。ここにも倫理性と合理性を兼ね備えたスティグリッツ等の姿勢を見ることができる。

7.G20は国際通貨金融システムの包括的見直しを開始すべきだ
 国際通貨金融システム改革の話題は、米ドルによる世界経済支配の崩壊を論ずることになるとして、スキャンダラスに扱われるか、或いは敬遠されるかのいずれかになることが多い。「スティグリッツ国連報告」は、そのテーマを今回の経済危機の原因として、又解決への道として位置づけることによって同テーマを現実的なものとした。それも、前回は国連、今回はG20という極めて強い政治力を持つ場に於いて、技術論的に検討を促している。国連報告とパリグループ提言の間には大きな違いは見当たらないが、提言の以下の書き振りには国連報告より強いトーンを感じる。
「世界がブレトンウッズ固定為替相場システムを離れてから40年、国際システムは、ミルトン・フリードマンのような自由市場の擁護者が予想したものとは著しく違った仕方で進化してきた。それは益々大規模化する国際的救済を必要とするかつてなく頻繁で厳しい危機と、著しい不安定性に特徴付けられたものとなった。一国の通貨に基礎を置く国際準備通貨制度は、益々グローバル化の進む21世紀には不合理である。」…「G20は国際金融システムの包括的見直しのプロセスを開始すべきである。」

 では、国連報告に沿って、米ドル単一基軸通貨制の問題点と超国家的国際準備通貨の創設についてのスティグリッツ等の主張を整理してみよう。

①今日のグローバリズムの問題点の一つは、国際準備通貨の役割を一国の国内通貨が果たしているところにある。根本的原因はトリフィン・ジレンマにある。準備通貨発行国は、世界が貿易決済等に利用する流動性資金を市場に供給しなければならないが、それは米国の国際収支に慢性的な赤字をもたらす。この赤字を米国の生産増強による輸出でカバーしてしまうと、海外の米ドル流動性が減ってしまうので、この赤字は米国内での生産-消費を制限し、輸入-消費或いは国外投資増-国内生産減を求められることになる。これは国内における完全雇用の足かせとなり、米国内の政治社会的不安定要因になる。一方、海外の米ドル不足が解消され、その他の要因(例えば戦争)で過剰流動性が発生すると、米ドル価値の減価がおこり、国際収支不均衡による国際基軸通貨の為替相場不安定が起こる。

②もう一つは先進国と途上国の間の富と信用の不均衡による問題である。現行の国際準備通貨制度では赤字国は収支不均衡を埋めるためIMF等の国際金融機関からの借入をすることになるが、そこにはコンディショナリティが付いていて、不況に対処するのに緊縮政策が求められ、不況に苦しむ途上国の国民を更に苦しめることになっていた。一方先進国は不況期には景気刺激策を採ることができ、両者の格差は開くばかりであった。また一方で、途上国が低金利で準備通貨発行国に預金し、高利で借り入れるという好ましくない富の移転効果を持っている。その規模は、下記のように驚くべきものがある。
「これらの要因の結果として、準備通貨の積立額は2007年には世界のGDPの11.7%まで上がった。アジア危機に襲われたその10年前は、5.6%であった。今回の危機への助走期間に当たる2003-2007年の間の準備通貨積立額は、年平均で7,770億ドル、世界のGDPの1.6%であった。大きな心配は、もし今回の危機が、恐れられているように、長く深いものとなり、途上国に提供される支援が不十分だった場合、保護貿易主義者的手段を通して強力な外部勘定を保持することが試みられるのではないか、「近隣窮乏化政策」、準備通貨蓄積による強力な自己保険が試みられるのではないかということである。これらすべての手段は世界の総需要を低下させ、危機への素早い対応を妨げるものである。」(国連報告第五章16項)
「途上国は実際、先進国に大きな金額(2007年には3兆7千億ドル)を低金利で融資している。貸出金利(準備預金金利)と途上国が先進国から借り入れる時に支払う金利との差は準備通貨国への富の移転である。その金額は途上国が先進国から受け取る外貨支援の価値を上回っている。途上国がこのように為替準備を選択するという事実は不安定性のコストについての彼らの認識の証言である。(裏返していえば、)もし彼らが為替準備を持っていないとした時に彼らが負担しなければならない調整コストへの認識の証言である。」(国連報告第五章22項)

③現行の国際準備通貨制度の問題を解決するためには、超国家的国際準備通貨の創設が必要であるとし、最初の提案者としてケインズの名前を紹介している。尚、二人は、この問題は国内通貨が準備通貨を兼ねるということから発生するため、複数基軸通貨制にしても解決できない。この制度は既にドルシステムからドル・ユーロシステムに移行した。但し、これは更に三つか四つの準備通貨制度に向かうこともあり得るとしている。

④スティグリッツ氏の「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」という著作について触れたが、この報告との間には、グローバリズムについての考え方に大きな開きはないように思われる。ただ一点、前著には国際準備通貨制度への批判が無かったという点を除いてはである。この問題については、ただ、その実現の時期がこの危機を機会にやって来たということなのであろう。ただしその発行体等については、複数案があるとして特定はしていない。ただし、運営方法として、準備通貨を資金運用できるようにすること(貯蓄を投資に回金してゆく仕組み)と、国際収支不均衡を是正する仕組みを重視している。

8.進んだ金融部門改革
 この分野での取組は、欧米で共に前進した。しかし、システム上重要な金融機関は、過大なリスクテイクへのインセンティブのために、グローバル金融システムとグローバル経済に、システミックリスクを惹き起こす。このような金融機関はまた低金利資金にアクセスできる結果、ダイナミックな機能麻痺に陥りながら益々巨大化することで効果的に助けられてきた。当局に清算権限があった方が望ましいが明らかにそれだけでは解決にならない。特に国境を越えて営業する金融機関の場合は特にそうである。それ故、追加資本の準備は必要であるが、特定されてきた全ての問題を解決するには不十分である。内外の多面的なより厳しい規制とより集中的な監督が必要である。パリグループのこの分野における考え方は以下の通りである。

①問題は単に政府が清算権限を持っているかどうかではなく、危機の最中にあって、政府が、債券保有者、株式保有者に全損負担を強制する権限を行使できるかどうかにある。金利の差が継続することは、マーケットが当局はそうしないと信じているからである。

②一方で倒産させるには大きすぎる銀行に十分な関心が払われて来なかったが、それだけが問題だったのではない。その規模は皆小さくとも、相互に連関して行動する数多くの金融機関が、システミックリスクを世界経済に惹き起こすこともあり得るのである。

③CDS(クレジット・デフォールト・スワップ)そしてその他のデリバティブ(金融派生商品)によって提起された、いくつかの問題は以下のものを含んでいる:(a)それらは保険商品として見なされているのか、ギャンブル商品として見なされているのか。(b)それらのほんの一部だけが、手形交換所を通るときに透明になる。(c)しかし、手形交換所に行っても、十分に資本増強され、それら自身とそのガバナンスが透明でない限り、引き続き懸念は解決しない。

④バーゼル3(バーゼル2プラスと呼ばれる)は、危機が明らかにした問題を十分解決するものではない。更に、完全に実行する前に長い時間が許されるということは、たとえバーゼル3が適切であったとしても国際システムは完全実施までの今後数年、継続的にリスクにさらされることを意味する。銀行は、完全実施される前に大きなリスクを取ろうとするので、恐らく、国際システムはもっと大きなリスクにさらされるであろう。

⑤ほとんどの国は、金融部門のインセンティブ構造によってもたらされた諸問題、特に過大なリスクテイクに導いた問題を適切に解決出来ていない。これほど悲惨な影響を多くの国民に与えた危機を生み出す上で果たしたインセンティブ構造の明白な役割を前提とすれば、インセンティブ構造の解決に失敗することは多くの民主主義を失望させ、政治プロセスは金融的利益に支配されたと信じさせることになる。大規模救済に関わった国の、多くの納税者は、そのほとんどとまでは言わないまでも、銀行が不公正に好条件の取引を手に入れ、国民は不利な条件の取引を手にしたという印象を持っている。銀行は(米国では)配当とボーナスを支払い続けることができた。それらの所得に対して彼等は不当にわずかの税金しか支払わない。銀行部門で集中度が高まったことによっては銀行が借入金利より相当高い金利を借入人に支払わせることによって、利益を高めた(利鞘が増加した)。このことは記録的な低レベルにある米国財務省短期証券の記録的な低金利による利益が、景気を良くし新しい雇用を作り出す実業界へのトリクルダウン(富裕層から低所得者層への富のおこぼれ的移転)は起こしていないことを意味している。金融部門の人々は政府に対して益々強い圧力を与えている。規制をするなというだけでなく、公共支出も減額せよというのである。

⑥電子的支払手段の金融システムによる独占は、広く乱用されており、G20は、これらの独占的慣習を抑制すべきである。そしてその独占税の一部を気候変動と開発に利用出来る税金に代替することを考慮すべきであると、批判的である。

⑦非協力的タックス・ヘイブンについてのG20の仕事は、本来の透明性、バランス、包括性をやや欠いていた。問題なのはオフショアカントリーだけではない。最大の金融センターのいくつかが、問題を起こしていると確認されていることである。

9.開発計画

 パリグループはG20のソウルでのイニシアチブを歓迎し、ほとんどのメンバーは、G20が開発計画を引き続き後押しし続けるべきであると考えたが、一人のメンバーが、恐らくは途上国世界の多くの人々の感情を反映して、この分野でのG20の正当性に疑問を呈した。最貧国の代表が参加しておらず、また先進産業国の代表がその援助についてのコミットメントを守れていない状況の下での疑問であった。

 一般に、「投機的活動には大きな社会的コストが伴っている。そして、少額の金融取引税は短期的投機(税金額は運用利益の内大きな割合を占める)と、長期投資(そこでは、税金は無視できるほどの影響しか持たない)とを差別化するのも有効である。かなりの税収を上げることもできるとして、パリグループは、金融取引税を特に支持するとしている。この税は今や多くの国の、多くの国民から支持を集めているように見える。そしていくつかのバージョンがいくつかの国で既に採用されている。

 危機の下で資金源が心配されるところの一つは、社会保障への資金供与の不足である。G20は、途上国の社会保障システムに適切に投入できる緊急資金ファンドに資金を供給することを検討すべきであるとしている

 最も問題の多い国のほとんどは、失敗した国家「failed states(政府の統治能力に問題のある国)」である。資金供与国は,その国のトップに座る腐敗した独裁者を支持しているように見えるのを恐れて、しばしばこのような国への援助を行うのを避けている。しかし、このような国に支援をしないとその国の国民を二重に傷つけることになる。パリグループがこの問題でこの考え方を選択したことは、北朝鮮、リビア、シリア、かつてのイラク等への対応を考える上で参考になろう。
加えて、資金供与国は、援助が直接国民に渡る分配メカニズムを見出さなければならず、政府が認めるならば、多くの国がそうであるように、市民社会や個人の力を強めるような仕方で、それを作ってゆかなければならない。

10.グローバルガバナンスの改革
 スティグリッツ等の問題意識には、金融のグローバル化に経済のグローバル化が追いついて行けず、経済のグローバル化にガバナンスのグローバル化が追いつけずにいる、そしてそれが、金融の専横を許し、経済社会危機をもたらしたという考え方がある。それ故、危機への対案は、国際協調を推進する民主主義的ガバナンスの確立に求められるのである。

 G20がガバナンス機関の役割を果たせないか、という考え方がある。この問題には、世界のGDPの約四分の三と世界人口の60%以上を代表していたとしても172ヶ国はメンバーではないという問題がある。また、あるグループが(例え多数の投票権シェアを伴うものであっても)実質的に他の国際機関に対して強制する決定ができるとすれば、G20がその国際機関に影響を与える懸念がある。

 それ故、G20は、正当性、代表制に限界があること、他の国際機関のガバナンスに関して引き起こす潜在的問題について公に認識し、それらの問題を解決するためのプロセスを開始する。同時に、G20は、国連システムの枠組みの中で自らをより公式なものにしてゆくべきである。代表については、例えば安全保障理事会の例に倣うこともできる。そして、パリグループは、これらの問題を解決してゆけば、G20自体が国連諮問委員会の要請した国際経済協調理事会(GECC)に進化してゆくかも知れないとまで言うのである。ここにも彼等の現実主義と原則主義の融合を改めて見ることができる。

 補助機関として、G20に対する「科学的顧問会議(仮称)」の創設についての国連報告勧告をパリグループは支持している。また、G20は、OECD が先進国のために果たしているのと同じ仕事を、新興国や最貧国のために果たす機関を創設するプロセスに入るべきであるとしている

 グローバルなガバナンスを維持してゆくために懸念されるその他の資金源は、より恒久的なインフラへの資金給与と貿易金融である。 資金供与は開発に取って必要であるが十分ではない。貿易政策もまた重要である、およそ10年前ドーハ・ラウンドが始まって以来多くの開発アジェンダ(行動計画)が弱められた。例えば、先進国が自国市場を最貧国に対して一方的に開くこと、「貿易のための援助」のための拘束力あるコミットメントを行い、途上国が貿易の自由化によってもたらされる機会を利用出来るようにすることも大切である。

 パリグループは、最後に、「尚多くの解決すべき問題を残している、特に一次産品価格の安定という重要な問題が採り上げられていない、この問題は今日の事態の発展の中で深刻な懸念となってきている」、と中東革命への課題意識を示して、提言を終えている。
その後、3月に、東日本大震災が発生、福島第一原発での深刻な事故を招いた。懸念されていた事故であるが、世界中で原発の見直しが始まり、気候変動問題への影響も必至と見られている。原発問題へのパリグループの、現実的、原則的提言を読んでみたい気がする。

 尚、本論考は、原典を組み替え、補足したものなので、特別なときにしか引用符を付けなかった。

 最後に、この論文でもたびたび引用されていた所謂「スティグリッツ国連報告」であるが、翻訳書が販売されているので紹介させていただきたい。A5版ソフトカバーで272頁、税込1,400円である。取扱い書店が大手の20書店強と限られているので、アマゾン、MARUZEN&JUNKUDOのネットストア、或いは「和泉通信ブログ」を利用いただきたい。私の単独翻訳で力不足は否めないが、国際金融の動向を考えてゆく一助に、この機会に一読されることをお薦めするものである。

森 史朗 2011/05/19 和泉通信

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