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2009年10月19日 (月)

スティグリッツ国連報告(最終版)第六章結論(完訳)

 スティグリッツ国連報告の第六章 Concluding Comments の翻訳が終わりました。訳者としてのコメントは、後日追記するつもりです。(←国連報告最終版へのコメントとして別記事で掲載しました。)
 2項、7項、13項、14項、20項、30項訂正しました。2項、13項、30項は全くの誤訳でした。
 今のところ、二,三,四章と五章後半の翻訳予定はありません。

(原典が出てからほぼ一年、全章について通読版を作成しました。誤訳や稚拙な訳を見直しました。翻訳文をお読みになる方は、→「スティグリッツ国連報告通読版第六章」)

〈 第六章 結論 目次 〉
1.何が悪かったのか:誤った政策と哲学の要約 第2-7項
2.何が成されてきたか 第8-12項
3.何が成されるべきか 第13-15項
4.いくつかの共通テーマ 第16-25項
5.いくつかの鍵となる勧告 第26-37項

 尚、スティグリッツ国連報告は翻訳したものを章別に掲載してあります。
      序文(Foreword) 
 第一章 はじめに(Introduction) 第1-57項
 第二章 マクロ経済学的問題と視点(perspective) 第1-133項
 第三章 国際的規制の改革により世界経済の安定性を高める 第1-235項
 第四章 国際機関(International Institutions) 第1-117項
 第五章 国際金融の革新 第1-101項
         国際準備通貨制度 第1-58項
        その他 第59-101項
 第六章 結論(Concluding Comments) 第1-37項(本ブログ)

森 史朗
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《 国連総会議長諮問に対する国際通貨金融システム改革についての専門家委員会報告
・・・スティグリッツ国連報告最終版2009/09/21 》

〈 第六章 結論(Concluding Comments) 第1-37項 〉

1.今回の危機はこの80年間で最も重要な意味を持つ国際的危機である。この危機は、経済に何かが起こった、何か、回避は勿論、予見さえできなかったことが起こったというような、単なる「百年に一度の事故」ではない。我々はその逆を考える、危機は人間がつくったものであると。これは民間セクターによる過ちと、誤って適用され失敗した公的政策の結果なのだ。

〈 1.何が悪かったのか:誤った政策と哲学の要約 第2-7項 〉

2.もし危機に対して適切に対処したいと思うならば、すなわち、もししっかりした経済を回復し、危機の再発を回避したいと思うならば、我々は危機を適切に診断する必要があるということを、この報告は前提にしている。政策と経済理論の双方が役割を果たした。間違いのある政策が危機をつくり出し、発生地から世界への危機の疫病のような拡がりを加速した。

3.しかし、公的部門、民間部門に共にあるこれら多くの誤りの基礎には、過去四半世紀の間を支配してきた経済哲学があった(時に新自由主義或いは原理主義と呼ばれている)。これらの誤った理論が民間と公的部門での決定を歪め、これほどまで危機に貢献した政策と、例えば「市場は自己修正的であり、それ故規制は必要ない」といった概念に導いた。これらの理論はまた、中央銀行の誤った政策にも貢献した。

4.国と国際の両レベルでの、誤りを内包した機関や制度的取り決めもまた危機に貢献した。彼らが信頼していた国際金融機関、その内部統治(governance)、そして経済哲学とモデルの欠陥は、危機が現実のものとなることを防げられなかったし、危機の発生を高める問題を見つけだし適切に早期警戒を発することもできなかった。そして、一旦危機が起こりもはや無視できないものになると危機に適切に対処することができなかった。実際、彼らが推し進めたいくつかの政策は、危機をつくり出す際にも、世界に急速に拡がる際にも共に役割を果たした。そしてこのすべてが、有毒な商品や、誤った管理哲学、欠陥のある制度の慣習を、他の国が見習うべき模範であると主張している国々から輸出することを容易にした。

5.適切な制度的慣習や取り決め、そして、それらのベースとなる経済的、政治的、社会的理論についての議論は何年も続くであろう。(ところで)新自由主義、市場原理主義、ワシントン・コンセンサス主義等、様々に呼ばれているものの鍵となる側面の背景となるアイデアとイデオロギーは見当たらないのである。危機を回避したり、危機の程度をやわらげたりするのにもっと役立ちそうなその他のアイデアは見過ごされていた。

6.20世紀の最後の四半世紀にはいくつかの記録すべき成功があった。その中でも小さくないものにアジアでの急速な成長が上げられる。そこでは、何億人もの人々が貧困から脱出し、寿命の延び、高い識字率、改善された健康を含む多くの前進がもたらされた。しかし、いくつかの国では成功しながら、他の国では成功できていない。国際金融経済取り決めは多くの場合発展途上国にとって不利に働いていた。世界の中の多くの国が急速に成長できるようになるについては、国際取り決めはコストなしで成果を納めたわけではない。多くの国に見られる格差の拡大、いくつかの場合に見られる天然資源の急速な過剰消耗、そして環境の劣化が上げられる。

7.最後の四半世紀は不安定性の高さによっても特徴づけられた。過去においては、途上国に端を発した危機が世界的なものにならないようにするために(途上国は)大きなコストを支払った。多くの(途上)国が必要のない厳しい不況、時には恐慌に直面し、(外国からの)支援には国民にとって重要なことで国家主権を失うことを伴った。この「2008年大不況」はたびたび発生し世界に飛び火した危機の中で最悪のものであった。先進国から始まった今回の危機は健全なマクロ経済と管理政策を導入したこれら途上国さえも道連れにした。国際化はより大きな経済の安定性の約束をしていたが、かえってより大きな不安定性に導くことになった。

〈 2.何が成されてきたか 第8-12項 〉

8.この危機に国際社会は前例のない方法で対処した。多くの政府により採用された大規模な景気刺激政策と救済パッケージは世界恐慌の崖縁から世界を引き戻した。概して経済活動を支援しようとする政府の支出政策は予想通りの効果を上げることができた。ほとんどの国では新しい負債に見合った新しい資産がつくり出されるように、これらの支出は生産的投資に行われた。特に賞讃されるべきは多くの景気刺激パッケージが「グリーン」コンポーネント(部品)を含んでいたことである。それらは地球が直面している長期的環境問題という大きな問題を解決し、同時にその支出が短期的な世界経済を強めることになる。

9.世界的協議の主要な舞台をG-8からG-20に変更したことは、いくつかの新興国を含む多くの国の参加を可能にした点で歓迎されるべきことである。しかしその声が反映されるべき世界の多数派をなす国々がまだ排除されている。特に、最貧国の声を排除したことは、協議の政治的正当性について懸念させるものである。当委員会は効率性(比較的小さなサイズの討論グループにすることで高められる)と政治的正当性を結合することの大切さは承知している。そして提出された重要な提案書はこのことが如何に成されたかを示している。国際貿易金融システムの改革のためのどのような提案も、成功のためにはこれらの懸念が解決されなければならない。

10.国際金融機関を改革するという約束もまた歓迎するものである。(しかし、)機関の長はその業績を基に選出されるという合意は既に長い間期限切れのままとなっている。もしこれらの機関がそのマンデートを達成しようとするなら内部統治の改革は必須である。第四章では、なぜ提案された改革が十分な成果を上げるに至らないのか、そしてどんな追加改革が求められているかが説明されている。

11.もっと、或いは少なくともより良い規制と強制が、特に金融の分野で、必要となっていることは今日理解されてきているようである(規制緩和を推進していた人たちによってさえも)。しかし第三章で書かれているように、控えている課題は大きく、且つ、必要な行動の諸側面について適切な理解ができているかも明らかではない。例えば当委員会は、資本市場と金融市場の自由化と規制緩和が危機を生み出すのに貢献しただけでなく、その急速な世界への拡大にも貢献したと考え、その仕組みに焦点を当てている。更に、改革は金融の先に行かなければならない。例えば企業内統治、競争、倒産に影響を与える法や規制の改革である。なぜなら、悪魔はしばしば詳細な部分に潜み、何かの原則についての合意宣言だけでは十分とはいえないからである。

12.世界中で採られている保護主義的行動の多くの例は(その様なことはしないと約束した政府によるものも含め、)後退であった。(とは言え)こうした約束やこのような政策を避けるようにデザインされた国際的仕組みがなければ、事態はもっとずっと悪くなっていたかも知れない。

〈 3.何が成されるべきか 第13-15項 〉

13.これは基本的なことである。国際社会が、しっかりとした持続可能な回復のために働き、長期的、民主的、公平で、安定していて、持続可能な成長を保証する改革に取り組む時、それは幅広い構想と視点への広範な敬意を払って行っているのである。我々が特定の経済理論に確信を持っていたとしたら、少しも控えめにしている必要はない。そして我々の政策は十分にしっかりしたものでなければならない。単に経済へのショックに耐えられるだけでなく、もし我々の理論のいくつかの前提が誤っていたと分かった時でも我々をしっかり支え守ってくれるものでなければならない。

14.これもまた必須である。政策は、広い視野と社会的公正と社会的連帯にふさわしい、一組の目標の範囲内でつくられなければならない。その際には途上国の福利と環境によって規定される限界に特別な注意を払う必要がある。今回の危機の早期解決ばかりを求め、国際経済社会が直面している真の問題を無視することは誤りであり無責任でもある。真の問題とは、気候問題、エネルギー危機、世界中のほとんどの国で起こっている格差の拡大、多くの場所での永続的貧困、内部統治と説明責任の欠陥(特に国際機関での)を含んでいる。多くの人にとってこの危機は国際アレンジメントの悪性の機能障害という一つの症状に過ぎない。我々の報告はこれらの広い視点から今回の危機に接近する。

15.我々が確認した問題を攻撃し、我々が求めるべき目標を達成するためには包括的アジェンダ(協議事項リスト)が必要である。本報告は国内・国際政策、規制と機関におけるいくつかの鍵となる改革に焦点を当てている。この危機はマクロ経済危機であるが、部分的にはミクロ経済的失敗が原因となっている。これら二つのしばしば絶望的な経済分析と政策の側面を絡み合わせて家に持ち帰っている。幾人かのアナリストはあるところに焦点を置き、他の人たちは他の箇所に焦点を置く。我々はこれらの問題は首尾一貫した枠組みからのアプローチが必要だと信じている。そして本報告で我々はまさにそのことをしようとしているのである。(下線部分の意味が読み取れません。この部分は無視しても良いのではないかとも思います。)

〈 4.いくつかの共通テーマ 第16-25項 〉

16.この分析を通して共通なテーマがいくつかある。一つは世界中のほとんどの国で拡がっている格差(inequalities)は、社会的に不公正であるだけでなく、有効需要が潜在的に弱いという問題にも寄与していることである。

17.二つ目は今回の危機は国際危機である。それ故、対応策は国際的視点から作られなければならない。危機に先行した何年もの間、世界経済を特徴づけていた国際収支の不均衡は持続可能ではなかった。しかし、拙いデザインの対応が。これらの不均衡を小さくすることがある。高いレベルの国際価格変動率が、不適切な国際取り決めと結びつくことによって途上国に特にこのリスクに対処することを可能とし、多くの途上国、少なくとも輸出主導戦略を採り自己保険を作る手段を持つ国にそれを促した。これは、高いレベルの準備通貨の積み上げに導いたいくつかの動機の一つとなり、世界需要不足の要因ともなった。

18.三つ目の分析テーマは、大きな国際的非対称性があるということである。それは、前回の危機の時に東アジアの国々に強いられた対処と、今回の危機に対応して先進国が追求した政策との違いによって説明される。これは発展途上国にとって不利なものである。これらの非対称的対処は途上国の高い変動率に寄与し、結果、高い資本コストをもたらし、成長と貧困に悪影響を与えることとなる。貧困国はゲームのルールを作る時にほとんど何の発言もできないという事実により、問題は複雑になる。対称的なルールだといわれているものであっても、このような雑多な世界に適用されると、強い非対称効果を持つこととなる。金融機関に対する先進工業国による政府保証が、資本が途上国からその誤った政策が世界の大火の原因となった国に向かうという皮肉な状況に貢献した。

19.四つ目は、低い取引コストで資本を割り当て、リスクを管理するという鍵となる役割を果たすことに金融部門はシステム的に失敗をしたということである。市場原理主義に惑わされ、政府は、経済理論と歴史的経験の二つの教訓を忘れてしまった。そこにはもし金融部門が重要な役割を果たそうとするならば、適切な規制が無ければならないと記されている。

20.五つ目は、経済の国際化がそれを良く管理するために必要となる政治的機関の発展を追い越してしまったということである。経済的統合は、経済的相互依存を内包し、そのことは最近の出来事が示すように世界の集団的行動を必要とする。この危機は国際的危機であるにも拘わらず、政策対応は国内レベルで作られている。一国の政府が行動(倒産から競争政策、金融市場規制まで)を取らなければならない地域のホスト(政府の長、或いは主権者の意味か)は今や国際的レベルで解決に当たらねばならない。現行の制度的取り決めは課題にふさわしいものになっていない。それらは改革されるか、新しい機関が創設されるかしなければならない。強力で独立していて、政治的に中立な組織(body)が必要である。その組織は、関連した国際金融機関に、持続可能で世界に対して責任を持つ姿勢で経済政策を立案する能力を高めるようアドバイスを提供するのである。ある方法で、或いはその他の方法でもし我々の国際経済が世界市民の多数派の利益のために働こうとするのならば、そしてもし、それが最近の何十年間よりもずっと大きな安定性を示すものにしようとするのであれば、何かが成されなければならなくなるであろう。これらの問題をこのまま悪化させておくわけにいかない。

21.六つ目のそして決定的なテーマは、それについては既に敷衍してきたが、外部性の拡がりである。いくつかの「市場の失敗」の一つであり、なぜ市場がそれ自体では必ずしも安定でも効率的でもないことを説明する助けとなったものである。これらの外部性は国内と国外への拡がりを持つ。一つの金融機関の失敗が他の金融機関の弱さに貢献する。その中核機能として働く金融システムの失敗は巨額のコストを社会に、経済に、納税者に、家屋保有者に、労働者に、退職者に、ほとんど全ての人に強いる。そして世界が彼らの誤りによる請求への支払いをこれからの何年間か続けることになる。ある国での誤りが他の国に巨額のコストを強いる。今回のケースでは少数の先進国の誤りが多くの途上国に大きなコストを強いてきた。良く機能する国際化であったら彼らを守ってくれたかも知れない。良く機能する市場であったらこれらのリスクを、負担力の小さな国からもっと力のある、負担力の大きな国に移したかも知れない。しかし、国際化も金融市場も共に良く機能しなかった。

22.危機に対応するためにはこれらの外部性を認識する必要がある。ある国での規制が他の国へ影響を与え得る。少なくとも国際金融規制については調整が必要である。今回の危機が国際的なものになってきている一方で、危機への対応は各国レベルでなされている。各国間の調整も最小限に留まり、各国が自国を守るためにできることは何でもやっている。途上国は、危機の流出元となった先進工業国よりずっと良い通貨、財政、管理の力を持っている多くの国を含めて、特に不利な位置に置かれている。不公正競争の問題では、途上国は富める国の補助金と保証力に太刀打ちができないだけであるように、それらは反循環的財政政策を取るための財源がないという問題と複合している。

23.七つめのテーマは新制度に関わるものである。金融市場は自らの革新性について誇ってきた。しかし彼らはより持続可能な成長、より大きな安定、何れに導く新機軸も開くことができなかった。また普通の市民が直面するリスクをより上手く管理できるようにする技術革新も、リスクを、担う力の小さい人々から大きい人々に効率的に移転できるようにする技術革新もできなかった。実際、いくつかの技術革新は問題をもたらした。彼らは情報の非対称性の問題を大きくし、複雑さを増すことによってリスク評価を難しくし、それ故リスク管理をより困難にした。いくつかの技術革新は、金融システムの効率性と安定性を保証するためにつくられた会計と金融規制の抜け道をつくることを狙うものであった。この意見は時に「規制が多いと技術革新を抑えつける」という見解の誤りを際立たせる。良い規制は起業家の才能を、社会的複利を推進する技術革新に導くものである。現代の技術は経済プロセスについての理解が進んだことと相俟って、このような技術革新の展望を広げた。そして我々は、一般市民の福利改善と世界経済システムの機能に貢献するいくつかの制度的新機軸を特定するために努力専念してきた。

24.市場の失敗についての検討の焦点が金融部門に当てられているが、明らかにいくつかの重要な問題がより拡がっている。過大なリスクテイキングと近視眼的行動に導いた、誤ったインセンティブ構造は、様々なところで示されてきたように、少なくとも部分的には、企業の内部統治問題の結果であった。「倒産させるには大きすぎる」、「解散するには大きすぎる」銀行(第三章で議論した)の問題は、不適切な競争法と、或いは施行上の問題を反映したものである。

25.最後のテーマは、今この時の事態に応えるに当たって、背後にある問題を悪化させないよう気をつけることである。この危機は必要な改革に取り組む機会と捉えられるべきである。歴史的に危機の時期はこういう時でなければ不可能な、抜本的改革のまれな機会をしばしば与えてくれる。しかし危険もまたある。現在の権力構造がこういう危機の時を捉え、そしてそれを自分自身の利益に利用することができるのである。そして、不平等と不公正を増強するのである。危機の後にはその前よりも経済政治権力の一層の集中があるかも知れない。これは過去にもあったし、今回の危機にもある国々では起りつつあるようだ。「倒産させるには大きすぎる」銀行のシェアが更に一層大きくなるように、である。

〈 5.いくつかの鍵となる勧告 第26-37項 〉

26.この危機は深い疑問を投げかけている。我々は、その多くの不利益がもたらすコストを負担すること無しに、国際化の利益を得ることができるか、ということである。我々は国際経済を世界中のほとんどの市民の福利が増進するような方法で管理できるだろうか。我々はそれは可能だと考えている。我々は国際経済を嘗て自分達が管理していた時より格段に上手にやることができる。当報告はどのようにしたらそれが可能となるかを示唆した多くの提案をしている。特に、どのようにしたら世界がちょうど経験したばかりの危機のようなリスクを減らすことができるのか、どのようにしたら特に最貧国を助けるような形で危機に対処することができるかということに焦点を当てている。

27.我々は短期的な治療法、すなわち、直ちに採り上げられる、また採り上げるべき手段と、協議に数ヶ月或いは数年を要する長期的行動を提案している。金融規制改革のような特定の分野では我々はむしろ特定された勧告を提案している(例えば、デリバティブの取扱或いは、「倒産させるには大きすぎる銀行」について)。その他のケースでは、我々は選択肢のメニューを残してきた。我々は、新しい国際準備通貨システムが絶対に必須であると考えている。しかし、そこには多くの異なる構想(design)があり、或るものは優れたマクロ経済安定性を提供し、また或るものは国際コミュニティーに多くの他の社会経済的目的を処理させている。結論で既に述べてきた通り、我々は国際経済政策を調整するためのより優れた制度取り決めが絶対に必須であると信じている。例えば、第四章で議論された、国際経済協調理事会(Global Economic Coordination Council)と国際専門家パネル等に沿ったものである。

28.発展途上国を支援するために何かが成されなければならないというのは、国際社会にとっては公正さの問題であり、私利の問題でもあった。本報告はもっと多くのことが成されなければならないと求めてきた。供給されてきた資金の内、短期ローンの占める割合があまりにも大きかった。危機の影響がかなりの期間感じられ続けるというリスクは少なくともある程度はある。更に新たな負債危機が発生することは誰も求めるものではない。供給される資金には、過去にしばしば押しつけられてきた非生産的な正循環条件が付けられてはならないと我々は強調してきた。我々が資金配分の分散調整推進と現行の組織的取り決めの決定的改革について議論してきた間に、新しい与信枠が必要であることも示唆した。その内部統治構造はもっと時代に合ったものであり、資金供給者と借り手の両者にもっと責任を持ち、その結果両者に、より大きな自信をもたらすものである。

29.もしこの危機が我々に何も教えることがなかったとしても、それはあらゆる経済(たとえ上手く舵取りされているものであっても)が直面しているリスクの規模の大きさを思い起こさせた。我々のリスク管理システムには、リスクを分け合い、小さいリスクしか負担できない国から大きな負担のできる国にリスクを移転することを含めて、多くの要望が残されている。債務不履行の脅威にさらされている政府債を組み直すことを含めて、我々の国際間債務不履行を解決するシステムは21世紀の国際化に対応するものになっていない。国際間商事係争を処理し、有効な国際競争を保証する制度的取り決めもまた同様である。これらの舞台のいくつかについては、我々は今後についての具体的な提案を行った。その他については問題の所在を示したにとどめた。それらの国が問題をフォローアップし、他のアプローチを開発することを期待している。

30.金融システムの問題を解決した後も総需要が不足する問題は続き、国際準備通貨制度のようないくつかの抜本的な改革に着手することが不可避となることを当委員会は強調してきた。これらのしつこい問題は特に重要な現行の景気刺激政策からの出口戦略の策定をも求める。景気刺激支出や、政府保証からの早過ぎる、バランスに欠けた撤退は、円滑な回復を弱め、国際収支不均衡を悪化させる。

31.当委員会は国、背景、視点(perspectives)の組み合わせを分散して、そのメンバーを選んだ。半年以上延長しての長時間の討論とディベート、各メンバーの考え方、視点を理解する上で助けとなったニューヨーク、ジュネーブ、クアラ・ルンプール、ベルリン、そしてハーグでの会議。本報告はこれらの長い討論の中から現れた、委員会メンバーの間のコンセンサスを反映したものである。

32.討論の過程で我々は予備報告(Preliminary Report, 2009年2月)と中間報告(Interim Report, 2009年5月)を発表した。我々はそれらの報告が受けた評価を喜んだ。我々は頂いた有益なコメントや提案は(本報告に)組み入れた。

33.第一章で述べた通り、当委員会もこの危機によって投げ込まれた挑戦に応えようとするいくつかの努力の一つに過ぎない。本報告の読者は我々が言ってきたことと、例えばG-20コミュニケの間にある、かなりの重複に気付くであろう。そして同時に読者は重要な違いにも気付かねばならない。読者が当委員会の結論に同意するにせよ、しないにせよ、我々が指摘した問題は今日まで適切に採り上げられていない。そして、それらは無視されてはならないのである。各国レベルで、また国際的レベルでそれらは取り組まれた。これらは例えば、現行の国際準備通貨制度の欠陥、「倒産させるには大きすぎる」、「金融的に解散するには大きすぎる」金融機関の発展を含んでいた。金融・資本市場自由化政策は新しい観点から見直される必要がある。銀行の秘密主義は課税遵守上の問題であるだけでなく、途上国が汚職と戦う際の問題でもあるのである。そして問題は時に主要マネーセンターで起る、オフ・ショアだけではないのである。最も大切なことは、もし国際化を機能させるつもりなら我々はもっと優れた、もっと民主的な、途上国の発言力の強い、それを舵取りする制度的取り決めが必要だということである。

34.我々が解決しようと試みた問題がそうであったように、今回の危機は複雑で、多面的である。このように短い報告では論争の対象となっているすべての問題を解決することは期待できない。我々の野心はもっと慎ましい。特に、すべての人々、中でも、最貧国とすべての国の最も貧しい人々の福利を推進するようなやり方で、まだ改善する余地があると、国際経済の効率性と安定性をかなりの規模で改善する余地があると、国際社会を説得することである。彼らはこの危機による罪のない犠牲者の中に数えられる。

35.もし我々がこの惑星で共に平和に、そして安全に生きていこうとするのであれば、国際市民の間にわずかばかりの社会正義と連帯が必要である。我々は、気候変動による荒廃から世界を守るために共に働けるに違いない。今日の世界が直面しているような国際危機の時には互いに助け合えるに違いない。そして経済の成長と安定性を長期にわたって推進できるに違いない。

36.国連は政治的合法性を持ち、これらのすべての問題に対処できる幅広いマンデート(委任された権限)を持ち、これらの世界経済的、社会的、環境的チャレンジを処理するための政策のすべての関連した側面を包括的に考慮することができる、唯一の民主的国際組織である。国連と国連ファミリーを構成する様々な機関は以前の危機・・・第二次世界大戦と大恐慌の時に生まれた。国際危機は国連と国際経済内部統治でのその役割を強化する機会を提供する。それが当委員会のメンバーが国連総会議長のイニシアチブを歓迎した理由である。当委員会の仕事は国連の幅広い関心とマンデートを反映した。しかし、特に危機の影響と危機に対処するためにつくられた政策、そして最貧国と新興国、すべての国の貧困層に焦点が当てられた。

37.本報告は我々が正しい方向に向かう上で助けとなると信じるいくつかの改革の概要を提供するものである。もしこの報告が我々すべてに決定的な重要性を持つこれらの問題についての、より開かれたディベートの議論の幅を広げることができたとしたら、本報告は使命を果たしたといえる。そして我々の厳しかった仕事はすべて報われたことになる。


森 史朗(翻訳2009/10/19)

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コメント

ご苦労様でした。全世界の総ての人々の近未来を照らし、勇気と希望を与えるスティグリッツ報告も、森先生のご努力なしには、多くの日本人は、日本語で読むことが適いません。ほんとうに貴重なお仕事をしていただいていることに、深く感謝するとともに、僭越ながら、ねぎらいの言葉を申し上げます。お疲れ様でした。ありがとうございました。残念ながら、未訳の章が残りますが、先生を鞭打つようなことは申し上げられません。願わくばその部分を翻訳してくださる方が現れ、合わせて1冊の書籍として出版されるようになれば幸いだと念じております。

投稿: 三好 | 2009年10月20日 (火) 02時27分

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