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2009年10月25日 (日)

超国家的国際準備通貨制度創設の時期がやってきた・・・スティグリッツ国連報告(最終版)を読んで

 スティグリッツ国連報告(最終版)が発表されたのが2009/09/21、当初予定していた翻訳作業が10/19,ようやく終わりましたので、同報告の概略と意義について考えてみました。同報告の予備勧告の翻訳から取り組み始めて7ヶ月になりましたが、今回の金融経済危機を考えていく上で有益だったと思います。また、この取り組みの中でデスコト第63期国連総会議長を知り得たことも収穫でした。

 景気は底打ちしたとの報道が盛んですが、国際準備通貨制度を中心に国際収支の不均衡と米ドルの過剰流動性問題を解決しないと、結局再び経済危機を迎えることになってしまいます。ご一読頂ければ幸甚です。

 尚、スティグリッツ国連報告は翻訳したものを章別に掲載してあります。
      序文(Foreword)(概訳) 
 第一章 はじめに(Introduction) 第1-57項(完訳)
 第二章 マクロ経済学的問題と視点(perspective)第1-133項(翻訳無し)
 第三章 国際的規制の改革により世界経済の安定性を高める 第1-235項(翻訳無し)
 第四章 国際機関(International Institutions)第1-117項(翻訳無し)
 第五章 国際金融の革新 第1-101項
         国際準備通貨制度(完訳) 第1-58項
        その他 第59-101項(翻訳無し)
 第六章 結論(Concluding Comments) 第1-37項(完訳)

 英文原典(PDF)

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《 超国家的国際準備通貨制度創設の時期がやってきた
  ・・・スティグリッツ国連報告(最終版2009/09/21)を読んで 》

〈 目次 〉
1.スティグリッツ委員会の位置づけ
2.危機は人間が作ったもの、単なる事故ではない
3.世界を幸せにするグローバリズムは可能である
4.超国家的国際準備通貨の創設
5.問題を公正に解決していくためには、民主的ガバナンスの確立が必要

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1.スティグリッツ委員会の位置づけ

・ ここでは「専門家委員会」と略していますが、正式には「国連総会議長諮問による国際通貨金融システム改革についての専門家委員会」("The Commission of Experts of the President of the General Assembly on Reforms of the international monetary and financial system")という長い名前をもっています。

・ 2008年11月にデスコト第63期国連総会議長がスティグリッツ氏に委嘱し、編成されました。スティグリッツ氏を委員長に17名のメンバーで構成されています。榊原英資氏がメンバーとして参加しています。

・ デスコト国連総会議長の委嘱は、大恐慌以来の金融経済危機に対応するため2009年6月頃開催予定の、「世界金融・経済危機とその開発への影響についての国連会議」(United Nations conference at the highest level on the world financial and economic crisis and its impact on development)に対し分析・提案を行うことでした。この国連会議自体は2002年3月18-22日にメキシコのモンテレーで開かれた「国連開発資金会議」のフォロ-アップ会議として2008年11月29日-12月2日ドーハで開かれた会議で開催が決定されていたものです。

・ 元々は発展途上国の開発資金の調達を目的とした会議なのですが、折からの金融経済危機が開発資金の調達を妨げていると言うことから、先進国も含めた世界金融経済危機の克服が検討の対象となりました。更に、新自由主義に批判的なスティグリッツ氏が委員長を務めること、早くから米ドル単一基軸通貨制(現行国際準備通貨制度)の抜本的改革を打ち出したことから広く世界からの注目を集めることとなりました。途上国の開発問題だけでなく、世界金融経済危機全般の分析、問題克服への提言が得られるのではないかという期待もありました。

・ 米国も、今回の経済危機克服のためには途上国、特に新興国の協力が不可欠と認識し、G7をG20に拡大して対応しました。G20は2008年11月にワシントンD.C.で第一回が開催され、2009年4月ロンドン、9月ピッツバーグと続き、来年からは年一回開催することが決まりました。こうした主要国中心に世界経済を運営して行こうとする動きに対し、発展途上国を中心にした国連は自らをG192と称し、すべての国連加盟国が参加しうる体制を主張しています。逆に米国は国連にこの種の事柄についての権限はないとして国連の動きを批判し、国連会議の延期を余儀なくさせる等、抵抗してきました。

・ しかし、会議は延期されながらも開催され、決議も採択されました。会議には各国の積極的参加があったため、会期を急遽2日間延長することになる等、成功裡に終わり、更に第64期国連総会に引き継がれました。世界金融経済危機をめぐる米国と国連の動きを表にまとめてみました。(表が見にくい方はコチラをクリックして下さい。PDFにリンクしています。)

Economiccrisisusunlist

2.危機は人間が作ったもの、単なる事故ではない

・ デスコト国連総会議長は報告の序文1に第六章1項を引用し、専門家委員会は、「この最終報告結論に書いてあるように、加盟国を気づかせ大胆に考えるように支援してくれた」と、この報告の役割を述べています。

   1.この危機は、経済に何かが起こった、何か、回避は勿論、予
   見さえできなかったことが起こったというような、単なる百年に一
   度の事故ではない。我々はその逆を考える、危機は人間がつく
   ったものであると。これは民間セクターによる過ちと、誤って適用
   され失敗した公的政策の結果なのだ。(第六章)

・  「百年に一度」ということから、政府や経営者、経済学者の中には、今回の危機を自分達にとっても「事故にあったようなもの」と捉える傾向があります。しかしそれは自分達の責任を免除しようとするものなのです。「危機は人間が作ったもの」ということになると、「誰が何を間違えたのか」を明らかにしなければならなくなります。

・  デスコト氏が序文3で、「今回の危機に対する国際的対応に際し最も残念だったことの一つは、政治的説明責任が全くといって良いほど果たされなかったことである。一部には、世界経済を自然とみなし、経済危機を自然災害とみなさせようとするせいである。」と率直に述べています。それは、「世界経済を自然現象のように語り、その法則を物理の法則と同様の確実性を以て取り扱おうとする傾向(序文2)」に結びつきます。原理主義的な考え方です。しかし、「本報告が強く主張するように、我々の世界経済は多くの可能な経済の一つに過ぎない(序文2)」のであり、その中で、より良いものを選び、作っていくことは私たちの責任なのです。

3.世界を幸せにするグローバリズムは可能である

・  「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」という著作で有名になったスティグリッツ氏ですが、第六章で以下のように述べています。

   26.この危機は深い疑問を投げかけている。我々は、その多くの
   不利益がもたらすコストを負担すること無しに、国際化の利益を
得ることができるか、ということである。我々は国際経済を世界
中のほとんどの市民の福利が増進するような方法で管理できる
だろうか。我々はそれは可能だと考えている。我々は国際経済
を嘗て自分達が管理していた時より格段に上手にやることがで
   きる。当報告はどのようにしたらそれが可能となるかを示唆した
   多くの提案をしている。特に、どのようにしたら世界がちょうど経
   験したばかりの危機のようなリスクを減らすことができるのか、
   どのようにしたら特に最貧国を助けるような形で危機に対処する
   ことができるかということに焦点を当てている。(第六章)

   20.五つ目は、経済の国際化がそれを良く管理するために必要
   となる政治的機関の発展を追い越してしまったということであ
   る。経済的統合は、経済的相互依存を内包し、そのことは最近
   の出来事が示すように世界の集団的行動を必要とする。この危
   機は国際的危機であるにも拘わらず、政策対応は国内レベル
   で作られている。一国の政府が行動(倒産から競争政策、金融
   市場規制まで)を取らなければならない地域のホスト(政府の長、
   或いは主権者の意味か)は今や国際的レベルで解決に当たらね
   ばならない。現行の制度的取り決めは課題にふさわしいものに
   なっていない。それらは改革されるか、新しい機関が創設される
   かしなければならない。強力で独立していて、政治的に中立な
   組織(body)が必要である。その組織は、関連した国際金融機関
   に、持続可能で世界に対して責任を持つ姿勢で経済政策を立案
   する能力を高めるようアドバイスを提供するのである。ある方法
   で、或いはその他の方法でもし我々の国際経済が世界市民の
   多数派の利益のために働こうとするのならば、そしてもし、それ
   が最近の何十年間よりもずっと大きな安定性を示すものにしよう
   とするのであれば、何かが成されなければならなくなるであろう。
   これらの問題をこのまま悪化させておくわけにいかない。
   (第六章)

・ 上記20項では、グローバリズムの問題を経済の国際化に対する政治の国際化の遅れとして捉えています。「世界市民の多数派の利益」という言葉は、経済レベルでの「世界連邦」構想を思わせます。そして、「政治統合」が一部の地域や勢力による覇権主義の「世界支配の場」に陥らないようにするためには民主的ガバナンスが不可欠なのです。

・ 今日のグローバリズムの問題点の一つは、国際準備通貨の役割を一国の国内通貨が果たしているというところにあります。第五章に説明されていますが、今まで接したことのない詳細な説明にいろいろな発見がありました。根本的原因はトリフィン・ジレンマにあります。準備通貨発行国は、世界が貿易決済等に利用する流動性資金を市場に供給しなければなりませんが、それは米国の国際収支に慢性的な赤字をもたらします。この赤字を米国の生産増強による輸出でカバーしてしまいますと、海外の米ドル流動性が減ってしまいますから、この赤字は米国内での生産ー消費を制限し、輸入-消費或いは国外投資増-国内生産減を求められることになります。これは国内における完全雇用の足かせとなり、米国内の政治社会的不安定要因になります。一方、海外の米ドル不足が解消され、その他の要因(例えば戦争)で過剰流動性が発生すると、米ドル価値の減価がおこります。国際収支不均衡により国際基軸通貨の為替相場が不安定になります。

・ もう一つは先進国と途上国の間の富と信用の不均衡による問題です。現行の国際準備通貨制度では赤字国は収支不均衡を埋めるためIMF等の国際金融機関からの借入をすることになりますが、そこにはコンディショナリティが付いていて、不況に対処するのに緊縮政策が求められ、不況に苦しむ途上国の国民を更に苦しめることになっていました。一方先進国は不況期には景気刺激策を採ることができ、両者の格差は開くばかりでした。これらの経験を踏まえ、途上国は好況期に準備通貨を積み立てて置き、国際収支悪化時の政策の選択肢を広げる「自己保険」といわれる政策を採るようになりました。しかしこの政策は国際収支の不均衡を拡大し、世界の総需要を減少させるというマイナス点を持っていました。また一方で、途上国が低金利で準備通貨発行国に預金し、高利で借り入れるという好ましくない富の移転効果を持っています。私もその規模を今回初めて知ったのですが、第五章16項、22項に記されている数字を見て驚きました。

   16.これらの要因の結果として、準備通貨の積立額は2007年に
   は世界のGDPの11.7%まで上がった。アジア危機に襲われた
   その10年前は、 5.6%であった。今回の危機への助走期間に当
   たる2003-2007年の間の準備通貨積立額は、年平均で7,770億
   ドル、世界のGDPの1.6%であった。大きな心配は、もし今回の
   危機が、恐れられているように、長く深いものとなり、途上国に提
   供される支援が不十分だった場合、保護貿易主義者的手段を通
   して強力な外部勘定を保持することが試みられるのではないか、
   「近隣窮乏化政策」、準備通貨蓄積による強力な自己保険が試
   みられるのではないかということである。これらすべての手段は
   世界の総需要を低下させ、危機への素速い対応を妨げるもので
   ある。(第五章)

   22.途上国は実際、先進国に大きな金額(2007年には3兆7千億
   ドル)を低金利で融資している。貸出金利(準備預金金利)と途上
   国が先進国から借り入れる時に支払う金利との差は準備通貨国
   への富 (resources) の移転である。その金額は途上国が先進
   国から受け取る外貨支援の価値を上回っている。途上国がこの
   ように為替準備を選択するという事実は不安定性のコストについ
   ての彼らの認識の証言である。(裏返していえば、)もし彼らが為
   替準備を持っていないとした時に彼らが負担しなければならない
   調整コストへの認識の証言である。(第五章)

4.超国家的国際準備通貨の創設

・ 現行の国際準備通貨制度の問題を解決するためには、超国家的国際準備通貨の創設が必要であるとし、最初の提案者としてケインズの名前を紹介しています。尚、この問題は国内通貨が準備通貨を兼ねるということから発生するため、複数基軸通貨制にしても解決できません。 

・ スティグリッツ氏の「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」という著作について触れましたが、この報告との間には、グローバリズムについての考え方に大きな開きはないように思います。ただ一点、前著には国際準備通貨制度への批判が無かったという点をを除いてはです。この問題についてはスティグリッツがケインズの提案を知らなかったはずはありません。ただ、その実現の時期がこの危機を機会にやって来たということなのでしょう。この点については一つ下の第五章7項からの引用に記されています。

   6.多くの人が現在の準備通貨制度の問題を超国家的国際準備
   通貨の創設によって解決できると考えている。実際、超国家的銀
   行によって発行される国際準備通貨というアイデアは新しいもの
   ではない。既に75年以上前の1930年、「貨幣についての論文
   (Treatise on Money)」という著書でジョン・メイナード・ケインズが
   初めて話題とし,同氏の国際清算同盟についてのブレトン・ウッ
   ズ提案で洗練されたものとなった。(第五章)

・ ただしその発行体等については、複数案があるとして特定はしていません。ただし、運営方法として、準備通貨を資金運用できるようにすることと、国際収支不均衡を是正する仕組みを重視しています。

   7.システムは如何に運営されるか、どのように国際通貨(=新
   国際準備通貨…訳者)の発行は割り当てられるか、どのように
   したら新制度への移行が上手に進められるか、といった問題に
   ついて現在、新しい代替案が数多く出て来ている。国際社会が
   詳細なアレンジを決めるには相当時間をかけた話し合いが必要
   になる。しかし、このアイデアが実現される時がきたのである。
   この案は、実行可能で、国際社会がこのような国際準備通貨制
   度の創設に取り組み始めることは絶対に必要なことなのである。
   さもないと、しっかりとした、安定した成長への回帰を支える、安
   定した国際通貨・金融システムへの展望を妨げることになる。
   (第五章)

   36.これらのどの仕組みの下にあっても、国々は、国際通貨のた
   めの彼らの準備資産の一部を国際通貨で保有することに同意で
   きる。国際準備通貨は中央銀行の準備資産への投資を資金の
   運用先として勧誘するのに十分魅力ある利息を支払うことができ
   る。・・・(第五章)

・ 上記36項では、A国が国際準備通貨発行銀行から借り入れた国際通貨でB国に支払います。B国は国際収支に余裕があれば国際通貨を追加輸入や成長率の高い国の通貨で運用します。その選択肢の一つとして入手した国際通貨の一部をそのまま国際準備通貨発行銀行に預金として預け、同発行銀行は地域開発銀行発行債や途上国発行債で運用し、預金国に利息を支払うという仕組みが想定されているのです。

   39.割り当ての仕事はその中にインセンティブと/或いはペナル
   ティ(大きな黒字を維持することをやめさせるため)を内包させる
   ことができるし、内包させるべきである。過大な輸出超過を維持
   している国はすべての或いは一部の外貨割り当てを失うことに
   するのである。もし割り当てが世界の需要を増やすために適切
   な時期に使われていないのならばである。(第五章)

5.問題を公正に解決していくためには、民主的ガバナンスの確立が必要

・ 危機を克服していくに当たって、短期的課題と長期的課題は相互に関連しており、例えば景気の回復があったとしても社会経済構造が改革されないままにされてしまうと、結局危機を再び迎えることになります。加えて現行の制度の中で利益を得ている勢力の力も侮れません。こうした抵抗を排し、危機から危機以前の状態に戻ることに満足するのでなく、危機を抜本的な改革の好機とし、より良い社会経済へ向けて前進しなければなりません。そしてその鍵は民主主義的ガバナンスを作り上げていくことにあると報告は主張するのです。特に、グローバルで民主的なガバナンスの媒体となり得るのが国連です。

   6. 国際的システムを将来の危機を回避するのにふさわしいもの
   にして行くために、その構造変革に取り組むことは重要なことで
   ある。しかし、現在の危機から回復するための短期的施策をか
   なり実施しないと、これらを実現することはできない。これらの短
   期的手段は、できる限り、必要な長期的構造変革を推進するの
   に資するように行われるべきである。或いは少なくとも、共鳴す
   る形でなされるべきである。(第一章)

   17. これらの長期的変革は、景気回復が確認された後、余裕を
   持って引き受けられるような単なる贅沢(な課題)ではない。これ
   らの変革は、景気回復自体のためにも必須である。更に、これら
   のより根本的変革が今引き受けられないと景気回復に比例して
   変革へのモーメンタムが失われてしまうリスクがある。強力な政
   治勢力が活動しており、現行の取り決めから、或いは最近の変
   更から利益を得ている勢力が根本的変革に抵抗してくるであろ
   う。しかし、これらの利権を許すことは危機の再発をもたらすこと
   になる。これも、1997-1998年のアジア金融危機から学んだ教
   訓である。そこでは比較的に早く景気回復できたために、金融シ
   ステムがそのまま残されてしまった。そしてそれが今回の危機
   の舞台を準備することになったのである。(第一章)

・ 上記二項には短期的課題と長期的課題の相互関連が記されています。17項では、改革に抵抗する政治の動きについても触れられています。米国を中心とした抵抗は、既に触れたように国連会議の延期までもたらしました。それは国連金融サミットの決議は勿論、この専門家委員会報告にも反映していることは、「・・・当然、その決議文書は妥協と計算された曖昧さとの結果であったにも拘わらず・・・(序文1)」というデスコト氏の発言に明らかです。

   11. 国際システムの変革の目指すものは、国際経済システムを
   より良い地球のために、より効率的に機能するものにして行くこ
   とである。この目的は同時に長期的目標をも含んでいる。例えば
   持続的で公平な経済成長、「decent work」(ILOが推進中の、
   権利が保障され、十分な収入を得、適切な社会的保護のある生
   産的な仕事…訳者註)としての雇用の創出、天然資源の責任あ
   る利用、グリーンガス排気量の削減や、解決がより急がれる関
   心事(食料・金融危機そして世界各地での貧困への対処等)で
   ある。世界は現時点の緊急課題に焦点を置いているが、「ミレニ
   アム開発目標」を含む国際的に合意された開発目標の達成と、
   気候変動の脅威から世界を守る課題は、最優先の課題として残
   されている。確かに危機に応える短期的ステップも、長期的世界
   変革の課題も共にこれらの目標達成に向け前進を促す好機とな
   るに違いない。国際経済危機からは徐々に回復して来るだろう
   が、地球温暖化に対応する新しい形のエネルギーの導入、世界
   からの貧困の撲滅や食糧や水の不足の問題を含むその他の挑
   戦を解決して行くためには、追加対策が必要となる。過剰生産
   力と大量失業が同居する世界の中で、地球温暖化や貧困の撲
   滅という挑戦に応えて行くことを含めて、未達成の地球的課題が
   残されている。このような状況は受け入れ難い。(第一章)

・ ここに(11項)描かれている長期的目標の世界は、「もう一つの新しい世界」です。次に引用する15項には、危機を新しい世界への変革の機会とする必要が述べられています。

   15. 今回の経済危機は、世界経済についての取り決めと、支配
   的経済理論(Dooctrines)とを再評価する絶好の機会とすべきで
   ある。最近になって、世界経済には様々な変化が起こった。例
   えば世界預金の出所、外為準備金とGDP、そしてこれらは、我
   々の世界経済についての取り決めに十分反映していないのであ
   る。短期の危機の問題を解決して行く際にも、その機会をより深
   い変革の機会として捉えることが大切である。その変革により、
   世界は、より公平で安定した世界金融システムと共に21世紀
   にはいることができるのである。そのシステムは、全ての国によ
   り高い繁栄の時代を導いてくれるのである。(第一章)

・ こうした変革を実現していく鍵はやはり民主主義的ガバナンスの実現にあります。最後に引用した35項は第六章「結論」の最後のまとめです。「専門家委員会の報告と6月の決議文書は、我々の国連を通して真実のために戦い続けよう、という招待状である。」というデスコト氏の序文結語と共にこれからも励ましの言葉にしたいと思います。

   8. どのような解決方法であれー今日の状況を安定化するため
   の短期的施策であれ、危機の再発を抑制するための長期的施
   策であれ、それは、グローバルでなければならない。そして、全
   ての国と、社会の中の全てのグループ対するインパクトに十分
   な注意が払われなければならない。特に、益々一体化の進む
   世界経済の中で先進国と発展途上国の繁栄は相互に依存して
   いる。変革プロセスに全ての国が参加することの重要性を認識
   し、真に民主的な対応を作り上げる以外に世界経済の安定性は
   回復できない。それができなければ、経済成長と世界中での貧
   困の削減は、危ういものになる。(第一章)

   19. 第1に、そして最も重要なことには、国際的な制度的取り決
   めが必要としている変革についての決定は、自選によるグルー
   プ(それが、G-7、G-8、G-10、G-20、G-24であろうと)によっ
   てなされるべきではなく、世界の全ての国によって、協調的に
   なされなければならない。この民主的な世界規模での対応を
   実現するためには、国際社会全体の参加を必要とする。それは
   地球全体からの参加によるものでなければならない。つまり、
    G-192である。(第一章)

   35.もし我々がこの惑星で共に平和に、そして安全に生きていこ
   うとするのであれば、国際市民の間にわずかばかりの社会正義
   と連帯が必要である。我々は、気候変動による荒廃から世界を
   守るために共に働けるに違いない。今日の世界が直面している
   ような国際危機の時には互いに助け合えるに違いない。そして
   経済の成長と安定性を長期にわたって推進できるに違いない。
   (第六章)

 森 史朗 2009/10/26

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